基準価額の見方を教えておこう

 今日もまた投資信託の大事な基礎知識について話そうと思う。コロコロ変わる株式市場の解説を追うのと違って、一度理解すればずっと役に立つのが投信の基礎知識。必要にして十分な投信知識だけを厳選して話してみよう。

 前々回で基準価額がどういう計算をされ、どういう意味を持つのかを話した。資産と口数の割り算だという話だった。でも、実際にいろいろな投信の基準価額を見ると驚くとはず。1,000円台のもあれば、数万円台のものもあったりするから。

 1,000円台のは「うわ、安っ!」、数万円台のは「げ、高っ!」って思うのかな。数万円の投信よりも1,000円台の方が安くて「お買い得なのでは?」と思うだろうか。残念だけど、間違いです。

 基準価額の額、水準は気にしないで大丈夫。大きな意味はありません――。これが正解です。

 ほとんどの投信は基準価額10,000円で誕生する。専門用語では「新規設定」って言うんだけどね、10,000円で新規設定され、運用が始まって10,100円になったり9,800円になったりを1日1回の変化として繰り返しながら、それぞれの投信は今現在の基準価額になっている。

「誕生日」が違うんだから、今の水準が違うのは当たり前。昨日誕生した投信はきっと10,000円に近いだろうし、10年前に誕生してたら3,000円かもしれないし30,000円かもしれない。

 この絵を見て。

 Aファンドは誕生してからすぐにマーケット、つまり株式市場全体が悪くなり、いっしょに下がってしまった。Bファンドは逆にマーケットが底を打って上がる直前に誕生している。さて、共に10,000円で始まった両ファンドだけど、Aは今8,000円でBは12,000円だ。

 何が言いたいかといえば、この2つに優劣などない。両ファンドとも市場全体と同じように動いているだけだから。前回話したインデックスファンドだと考えるとわかりやすいかもしれない。AもBもインデックス、ここでは「市場環境」と書いてあるけど、それと同じ動きができているんだから、両方ともいいインデックスファンドだ。

 生まれたタイミングが違うだけで8,000円と12,000円になっているだけ。もしこの後に市場が2割上昇するとしたら、Aは8,000円の2割の1,600円上がるから、基準価額は9,600円になるだろうし、12,000円のBは2割の2,400円上がって14,400円になるはずだ。

 そして、もし100万円分でこれらの投信を買っていたとしたら、Aを買ってもBを買っても2割増しの120万円になっているはずだよね。

 そう、基準価額の水準には大きな意味はない。投資の成果をはかるための「モノサシ」でしかないと覚えておいて。

基準価額の変化は「額」でなく「率」で見ないとダメ

 でも、モノサシでしかないと理解していても、ふとチェックした日に基準価額が「―200円」とかになっていると、すごくビックリする。

  でも、「200円」という額だけでは何もわからないんだよね。10,000円の基準価額の投信が1日で200円下がっているなら2%の下落だけど、20,000円の基準価額の投信なら1%。そう、基準価額の変化は「額」でなく「率」で見ないと何の意味もない、ことを覚えておいてほしい。

 君たちが口座を開く金融機関のアプリやHPではきっと、基準価額の変化、騰落率って言うんだけど、それを「-200円(-1.0%)」のように額と率を併記していると思う。もしそうでない会社だったら、今僕が言ったことを思い出して、頭の中でザックリと「率」に置き換えるように。

 実は僕の会社のHPは長いこと「額」のみだったんだよね。それが数年前のHPのリニューアル時に「率」を併記するように変わったんだ。「あぁ良かった、これでビックリする人が減るな」と安心したのを覚えている。

 ところで、僕の今までの経験というか感触としては、投信の基準価額の1日の騰落率、変化率っは、上にも下にも数パーセント台がほとんどだと思う。1日で5%上がったり、5%下がったりすると「お、結構動いたな」と思う感じ。もちろん投信の「中身」が何なのかと、その時々のマーケット次第ではもっと動くので、あくまで印象論としての数字だけど。

 この数字は株式の投信、つまり中身が「株式オンリー」の投信の場合の感触。中身が株式100%でなく「クッション役」的な効果を期待した債券もいっしょに入っている、いわゆる「バランスファンド」の場合だと、1日の値動きはもっと小さくて、1%以下とか大きく動いても2%台とかのイメージ。これも商品性によって違うんだけど。

 どうだろう、「意外と動かないんだな」と思っただろうか。個別の株式になると、1日で数十パーセントも動いたりすることもあるので、いわゆる「株って怖い」っていうイメージと比較する限りにおいて、投信は確かにマイルドではある。

「率」のチェックもほどほどに

 個別株式への投資から見てマイルドな理由は、投信とはそもそも最初から「中身」が分散がされる商品だから。株式100%の投信で少ない場合で30から50銘柄くらい、多くて100から200銘柄くらいが組み入れられている。中身の配分比率としては、商品によって多かったり少なかったりの濃淡はあるけど、投資している株式の数自体は結構多いことがわかるはず。

 つまり、ある1銘柄が1日でドンと20%上がったとしても、50から200、場合によってはもっとたくさんの銘柄が入っているということは、その銘柄のすごい上昇の「パワー」は薄まることになる。もし100銘柄が濃淡付けず均等の比率で組み入れられている投信だとしたら、その銘柄の20%の上昇は100分の1の0.2%の上昇インパクトしか、その投信に与えられないことになる。

 だから、投信を使って「一発当てる」大儲けなんて、そもそもできない。毎日基準価額をチェックするなんて、意味のない行為だと思って欲しい。

 もちろん、さっきの1日5%とか1%とかっていう数字は単なる僕の感触でしかなくて、日によってはもっと動くし、1日では1%しか動かなくても毎日続けばそれなりなわけなので、「投信の値動きは小さいから安心しなさい」と言い切りたいわけでは決してない。

 それでもやっぱり、基準価額の変化の「額」を毎日チェックして、あれこれ悩むのは止めた方がいい。前にも話したけど、夫婦でオープンに同額で取り組んで、それを例えば毎月1回、日にちを決めて2人でチェックする、とかがいいんじゃないだろうか。

「今月このファンドは〇%下がっちゃってたんだね」「でもこれは〇%しか下がってないね。やっぱ商品性が違うからなんだねー」なんて会話をしてもらえたら、いいなぁ。

 うん、すごくいいなぁ。めちゃめちゃいいなぁ。

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