新指導体制が経済情勢に及ぼす影響

 明暗を分けた李強氏と胡春華氏を対照的に描写しましたが、私は前者が能力も経験もないにもかかわらず昇進し、後者はそれらが備わっているのに降格させられたと断定しているわけではありません。心の内は分かりませんが、習近平氏には、党と国の大局を保証するための独自の考えがあるのでしょう。胡春華氏には何かが足りなく、逆に李強氏にはそれが備わっているという見解を、習氏が抱いているのは間違いありません。

 では、その「何か」とは何なのか?

 私から見て、この部分こそが、新指導体制が今後の中国を巡る情勢や動向を左右し得る重要な要素になります。

 それは、忠誠心。それも、習近平新時代の為政者に求められる、忠誠心です。

 この問題を考える上で絶好のケーススタディになるのが、まさに今年の上半期、上海で2カ月以上続いたロックダウン(都市封鎖)にほかなりません。端的に言えば、異なる意見が上がってきていた中で、「ゼロコロナ」の観点から上海で徹底した都市封鎖をすべしという方針を決めたのは習近平氏本人です。李強氏はその方針を忠実に実行したにすぎません。李強氏に自分の意思はないのです。あってもそれを実行することはありません。

 上海市(民)の実情をより正確に理解しているのは習氏ではなく、李氏のはずです。中国最大の国際ビジネスセンターで、政治ではなく経済の都である上海で徹底した都市封鎖を長期にわたって実行すれば、経済がどうなるか、市民の生活がどうなるか、李氏には容易に理解できたはずです。

 ただ、これは李氏にとってある意味どうでもよかった。市民がどれほどの犠牲を強いられるか、経済がどれほどのダメージを受けるかではなく、習氏がどう感じるかに対して、どれだけ忠誠心を誓い、それに基づいて行動できるか。それこそが、李氏にとっての唯一の行動規範になります。習氏に対する権力の一極集中がもたらす副作用だと言えます。

 そして、忠誠を誓いとおした李氏は、習氏に続く序列2位、異例の総理候補となりました。職位としては、来年3月以降、李克強(リー・カーチャン)・現総理の後任として、内閣を率いていくのは李強氏に内定しました。国務院総理・李強はどんな経済政策を打っていくのか。現時点では分からない部分もありますが、私の脳裏を駆け巡るのは、上海でのロックダウンの光景です。

 国民経済や生活ではなく、親分にのみ忠誠を誓う、それは市場にとってネガティブになるのではないか。24日、香港株式市場において、中国本土銘柄から成るハンセン中国企業株(H株)指数は7.3%安で引け、党大会後としては1994年の導入後で最大の下落率となりました。上海総合指数終値も2.02%安、中国株65銘柄で構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は14%下落し、2013年以来の安値で終了しています。

 私から見て、歴史的暴落の根本的要因は、この日遅れて発表された2022年7-9月期の実質GDP(国内総生産)が前年同期比3.9%増(2022年4-6月期の0.4%増から回復、市場予想も上回る)だったことではなく、上記の党大会人事にあります(「胡錦涛退席事件」も加担)。

 もちろん、それ自体は一時的な現象であり、特に中国に近い香港の投資家が過剰に反応したという側面もあるでしょう。一方で、李強氏を巡る人事に内包される政治リスクは、今後の中国経済を見ていく上でも避けては通れないと思います。

 習近平第3次政権がスタートしました。引き続き、本連載でも注意深く追っていきます。

マーケットのヒント

  1. 党大会閉幕後お披露目された新指導部を巡る人事は市場に大きなショックを与えた
  2. 特に李強氏の総理内定は、今後の中国経済を占う上での不安要素になる
  3. 遅れて発表されたGDP数値が株価下落の根本的要因ではないように、党大会を経て、最大の中国リスクは経済ではなく政治。