物議を醸した李強、胡春華の命運と胡錦涛前総書記退場事件
新たな政治局常務委員の顔ぶれは、序列順に以下の通りです。
氏名(年齢) | 党大会までの肩書 | 新たな肩書(決定/予定) | 習近平派か否か | ||
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習近平(69) | 党総書記 | 党総書記(決定) | ----------------- | ||
李強(63) | 上海市党委書記 | 首相(予定) | 習近平派 | ||
趙樂際(65) | 党中央規律検査委員会書記 | 全国人民代表大会常務委員長(予定) | 習近平派 | ||
王滬寧(67) | 党中央書記処書記 | 全国政治協商会議主席(予定) | 無派閥 | ||
蔡奇(66) | 北京市党委書記 | 党中央書記処書記(決定) | 習近平派 | ||
丁薛祥(60) | 党中央弁公庁主任 | 筆頭副首相(予定) | 習近平派 | ||
李希(66) | 広東省党委書記 | 党中央規律検査委員会書記(決定) | 習近平派 | ||
筆者作成 |
この中で、私が最も驚いたのが李強氏の序列2位、すなわち総理内定です。改革開放以降、全ての総理経験者は副総理を経験した上で、総理になっています。一方、李氏には副総理を含めて、国務院、すなわち中央政府で働いた経験がありません。比較が正しいか分かりませんが、大阪府知事がいきなり霞が関/永田町にやってきて、内閣の首長として中央省庁全体を束ねようとしているようなものです。首都における経験も人脈もない人物に果たして務まるのか、疑問符を付けざるを得ません。
李氏が首相に就任するのは来年3月の全国人民代表大会(全人代)ですから、それまでに副総理を経験させて、政権としての体裁を整える可能性はあるでしょう。ただ、体裁はどこまでいっても体裁であり、わずか数カ月で中央政府における人脈や経験を構築できるとは到底思えません。
新常務委員がお披露目する前日(22日)の閉幕式で、新たな中央委員205人の名簿が発表されました。そこに汪洋(ワン・ヤン)全国政治協商会議主席(副総理経験者)の名前がなかった時点で、私は、総理には胡春華・現副総理が就くと察知しました(新中央委員名簿に名前あり)。地方を統括した経験も十分であり、資格という観点から彼しかいないと判断したからです。
ただ、ふたを開けて見ると、胡氏は人民大会堂のお披露目式に姿を現さなかった。それどころか、同時に発表された政治局新委員(24人)の中にすら彼の名前はない。胡氏は過去の5年間政治局委員(25人)としてやってきましたから、正真正銘の降格です。
そして、海外メディアを震撼させた、党大会閉幕式で胡錦涛前総書記が半ば強制的に退席させられた「事件」は、私が把握する限り、上記人事と無関係ではありません。詳細にはあえて踏み込みませんが、あの時点で、胡錦涛氏は自らが思い描き、あるべきだと考える人事と、習氏が強行しようとする人事に明らかな落差が存在すると察知していたこと、その象徴が、同じ共産主義青年団出身の秘蔵っ子である胡春華氏の去就であったことは間違いないと言えるでしょう。