3.ESG投資のような非効率運用

 コア・サテライト運用の例を見て分かる通り、年金基金でも個人投資家でも合理的な資産運用は運用業界が期待するよりも遙かにシンプル且つローコストに実現できる。

 率直に言って、運用業界側は「これでは商売にならない」とばかりに、各種の新商品やサービスを年金基金にも個人投資家にも開発し、提供してきた。

 年金基金向けのものとしては、「ヘッジファンド」(成功報酬の手数料は半ば詐欺的だ)、「オルタナティブ運用」(多くは手数料が高すぎる新奇なだけの運用商品だ)などと共に、近年、年金基金が巻き込まれているように見えるのは、「ESG投資」を謳う運用商品やサービスだ。

「ESG」は、もともと3項目何れも、例えば投資先企業を評価する際の評価項目として「普通の運用でも重視されるべき当たり前の項目」であり、この判断に対して追加的料金を取るような性質のものではない。普通の投資では、当然E・S・Gそれぞれについて評価する。投資として、それで何の不足もない。

 加えて、E・S・G何れであっても、普通の運用判断に加えた特別な基準としてポートフォリオに反映させると、主観的最適化のロジックの下では「必ず」ポートフォリオが最適状態から乖離する要因になる。一方、E・S・Gの何れかがポートフォリオに影響を及ぼさないなら、商品としての「ESG投資」に意味はない。

 因みに、そこで生じる半ば冗談のような二重の無駄が「グリーン・ウォッシュ」の問題だ。そもそも投資としてはやらない方がいいESG投資に対して、「マジメに取り組んでいないのにESG投資を謳っている」と腹を立てているのが、グリーン・ウォッシュに目くじらを立てる人の立場である。

 本来、運用の効率を至上の目的として「プルーデントマン」であるべき年金基金にあっては、ESG投資を採用する事は適当ではない(米国などの年金業界のルールにはそのような見識を示すものがある)。

 しかし、一方で、現実問題として運用業界は、ESG投資を主に年金基金にとって「採用すると気持ちが良くて世間体が良く」、「新たな自分たちの仕事を作ることが出来て」(しかも、コストは加入者持ちだし)、「少しぐらい手数料と手間を掛けてもいい対象」であるかのように思わせることに成功した(長年端で見ていて、実に周到なマーケティング活動だったと思う)。

 基金とその担当者も本質的に「セルサイド」であり、同時に「気分や世間体のいい」(ESG投資に関わると少しいいことをしているような錯覚に陥る)仕事は嫌いでないことを売り手側は実に巧みに利用した。

 個人投資家にとっての教訓は「ESG投資商品に手を出すな」でもいいのかも知れないが、もう少し膨らみを持たせて、少しお節介が過ぎるかも知れないが、運用に過剰な思い入れを持ち込むなと申し上げておこう。

 尚、年金運用で取り上げられたESG投資商品が個人投資家に迷惑を掛けつつあるのと、個人投資家が好む株主優待が年金基金にとって悩みの種なのとは、何となく「いい勝負」のような気がしなくもない。

 もちろん、読者は、「合理的な投資家としてはどうすべきか」をご存知だろう。