日中関係の現状

 節目を迎え、岐路に立つ日中関係の現状を私なりに整理してみたいと思います。

 まず経済の往来です。50年前の国交正常化当時、わずか11億ドルだった日中間の貿易額は、2021年、3,914億ドル(前年比15.1%増)となり、過去最高額を記録しています。中国には約3万社の日本企業が商いを行っていて、1,000万人以上の中国人を雇用しているとされます。2007年以降、中国は日本にとって終始最大の貿易パートナーであり、日本の対外貿易における対中貿易は20%を超えます(例:2020年、23.9%;2016年、25.8%、日本財務省貿易統計)。

 次に人の往来です。ここ3年はコロナ禍で異常事態といえますが、その直前の2019年、「アベノミクス」の効果もあり、訪日外国人総数は3,188万人と過去最高を記録。トップは中国で延べ959万人を占めています(同年の日中間の往来総数は延べ1,280万人)。

 さらに、日中両社会の関係も広範に及んでいます。両国間には256の姉妹都市があり、東京―北京という首都間だけでなく、地方、民間レベルでの交流も盛んに行われてきました。中国の人たちが日本へ観光に来ると、漢字という共通の文化もあり、他の外国人に比べて、日本を旅しやすいという利点があります。言うまでもなく、中国に向かう、中国で暮らす日本人にとっても同様の利点があります。

 このように、日中間では、ヒト、モノ、カネ、情報の往来が多角的、大規模に行われています。一方で、尖閣諸島を巡る「国有化事件」に象徴されるように、主権、領土、民族の自尊心などに関わる重大事件が発生するたびに、日中間の国民感情は悪化し、外交関係を困惑させます。この悪循環は、日中間の正常な往来を阻害する要因となり得るのです。言うまでもなく、中国でビジネスをする3万社の日本企業にとってみれば、中国人が日本のことを好きでいてくれるほうが、嫌いになられるよりも好都合なのは論をまちません。日本企業の収益、日本経済の成長にとって中国は死活的に重要ですから、中国人が日本のことを好きなのか、嫌いなのか、というのは大問題なのです。

 上記で「国民間の関係を正常化」と書きましたが、日本と中国との間で、両国民間の相互理解を促し、信頼を育むことほど、長期的、根本的に見て重要な課題はない、というのが私の基本的考えです。