資産運用の簡便法

投資配分の決定は、理屈に忠実に行うなら、リスクとリターンの関係を勘案して決まる。リスクについては、大本に帰ると、リスク資産への配分額の決定に当たっても重要なので、具体的なデータに当たってみることにしよう。

リスクの推計方法については、「これが正しい」と一意的に言える方法があるわけではない。そもそも、将来は過去の単純な延長ではないし、過去のデータを使うとしても、何年のデータを使うのがいいのかは、分析者の判断によるとしか言いようがない。長期間のデータを使うと統計で言う「サンプル数」は大きくなるが、遠い過去と現在では株式市場や企業の様子が異なっているから、古いデータの影響を受けたリスク推計値を使うことのマイナス効果も心配だ。

ここでは、運用金額的には今や世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のリスク・データを借りてみよう。GPIFは資産配分の目標となる基本ポートフォリオを策定しており、毎年、その前提となるデータについて検証している。以下の表1は、2007年に行われた検証の際のデータによって計算したGPIFの基本ポートフォリオのリスク値その他だ。

<表1>

GPIFの基本ポートフォリオは、巨額の公的年金の運用ということもあって、かなり保守的な(リスクの小さい)ものとなっているが、このデータを拝借しよう。

ちなみに、2007年度の検証に使われた、GPIFのリスク・データは、2006年度までの過去34年分のデータから計算されたものだ。これだけ長い期間から求められたデータが、今の時点から見た将来についてベストなのか、という点については多少の疑問があるが、大まかなリスクの大きさを把握して、投資配分を考える上ではおおむね大丈夫なのではないかと思われる。

問題の国内株式と外国株式のリスク値を見ると、過去に為替レートの少なからぬ変動があったにも関わらず外国株式の方がリスク値は小さい。これは、MSCI-KOKUSAIが多くの国の株式を含むベンチマークなので、分散投資効果を享受していることによるのだろう。

表2は、国内株式と外国株式に同じ期待リターン(1月8日の長期金利にリスクプレミアムとして6%を足した7.465%を使った)を与えてリスクとリターンとのバランスが最適になるように計算した最適解を示したものだ。

<表2>

この計算によると、大まかには、国内株に4割、外国株に6割、それぞれ先ほど挙げたETFを通じて投資すればいい。それで、機関投資家(運営コストは小さくないはずだ!)とほぼ同等の運用を行うことができるということだ。(注:実質的には、リスクとリターンの効率性が改善している分、機関投資家以上と言えるかも知れない。GPIFのような機関投資家の場合、しばしば、「国内株>外国株」という無用な制約を課することが多く、効率が下がる)

なお、この配分比率は、実用上それほどデリケートに守らなければならないものではない。たとえば、国内株式と外国株式を半々に組み合わせた投資配分のリスクを同じデータを基に計算すると、約16.8%であって、42:58の配分とそう大きな違いはない。

結論

簡単すぎて拍子抜けするかも知れないが、TOPIX連動のETFとMSCI-KOKUSAIに連動するETFに、4:6或いは5:5程度に投資すると、簡便法としてはそれなりに合理的なポートフォリオができる。プロといえども、常にこれをはっきり上回る運用を行うことは簡単ではないはずだ(理屈上は、同じ配分で、ETFよりも手数料が低い運用に委託する以外に明確な必勝法はあり得ない)。

リスクの大きさは時によって変化するが、計算されたリスク値の2倍(統計的には「2標準偏差」)の大きさを一年後の最大限の損失と見て計算しておくと、リスクの見当のつけ方としては、まあまあ大丈夫だろう。

もちろん、「こんな運用では退屈だ!」という人もいるだろうから、個別株への投資も含めて、いろいろと工夫することは悪くないが、いざ勝とうと思うと、この簡便法はなかなか手強い相手のはずだ。

本資料は情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。本資料の情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本資料の記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本資料の記載内容は、予告なしに変更することがあります。