必ずしも資産運用に詳しくない個人であっても、ETF(上場型投資信託)を使うと、比較的簡単且つ安価に、専門的な運用と大きく変わらない内容の運用を行うことができる。

特に、外国株式に投資するETFが利用しやすくなったことの効果は大きい。これまで、外国資産に関する運用は、国際分散投資を行うこと自体はリターンとリスクの関係を改善するに当たって明らかに有効(実証以前に、論理的に有効だといえる)だと言えるものの、外国株式や外国債券に投資するリテール向けの投資信託は手数料が高すぎて、投資の具体的な手段を探すことが難しいという問題があった。だが、近年、海外の株価指数に連動する運用を、ごく安価な信託報酬で利用することができるETFに投資できるようになって、個人の資産運用は大きく改善できるようになった。

ETFの最大の特長は信託報酬の低さだ。たとえば、TOPIX連動型のETFの信託報酬は年間約0.1%~0.2%程度だが、日本では、個人向けに売られている投資信託だと、インデックス運用を行うファンドでも0.5%以上の信託報酬を取るし、アクティブファンドの多くは1.5%前後の信託報酬のものが多い。

アクティブ運用に関しては、(1)アクティブファンドの平均は市場平均を下回ることと、(2)過去の成績等を参考にしても将来相対的な運用成績がいいアクティブファンドを事前に選ぶ方法はないことの二点が知られている。運用会社にとっては都合の悪いことだが、これら二点を論理的に突き詰めると、投資家が手数料の高いアクティブファンドを買う合理的な理由は存在しなくなる。

他方、ETFの短所は何だろうか。一つには、株式のようにある程度まとめた単位で取引されるため、月々幾らといった積立投資に適さないという問題がある。また、これは投資家の注意によって回避可能だが、取引する金額や頻度によっては、売買手数料がかさむ場合がある。

だが、長所と短所を総合的に考えると、運用手段としてのETFは長所の方が短所よりも圧倒的に大きい。特に、個々の銘柄の情報や取引へのアクセスが必ずしも簡単ではない外国株式に個人が投資する場合、外国株に連動するETFの利便性と有利性は顕著だ。

投資のリスクとETFの配分

ETFへの投資で、最も大きな問題は、ETFの選択以前の資産配分の決定だろう。

普通の個人投資家にあって、無難な手順は次のようなものだ。先ず、家計の状態を把握して幾らまでリスク資産に投資するかを決定する。この場合、金融資産の運用で取ることができるリスクを、たとえば「一年間に幾ら損しても大丈夫か」といった具体的な条件として把握して、これに対応する金額の範囲内でリスク資産への投資を考えることが大切だ。

リスクの上限の範囲内でリスク資産に対する投資金額を決めたら、次に、リスク資産の中での投資配分を決める必要がある。個人投資家の資産運用の場合、リスク資産の中身は、国内株式と外国株式の組み合わせが適当だろう。年金基金など、機関投資家の運用計画では、外国債券に対する投資配分がある程度行われる場合があるが、個人の場合、個別の外国債券を買うとしても、投資信託で投資するとしても、為替の手数料や債券価格に含まれる手数料、或いは信託報酬などのコストが大きく、分散投資の拡大によるメリット以上のデメリットが生じる場合が多い。また、機関投資家の運用計画にあっても、近年は、外国株式への配分の方が、外国債券への配分よりも大きい場合が多い。

二つのETFで行うプロ並みの資産運用?

年金基金など、大きな金額を運用する運用機関の内外の株式運用は、国内株式がTOPIX、外国株式がMSCI-KOKUSAI(日本を除いた先進国の株式で構成される株価指数)をベンチマークとして、外部の運用会社を使って行われることが多い。

ところが、外部の運用会社を使った実際の運用成績は、ベンチマークに対して「勝ったり、負けたり」であるようだ。関係者の話を聞くと、特に近年の傾向として、外国株の運用にあってベンチマークに勝つことが難しいらしい。

そう考えると、個人の資産運用でも、TOPIXとMSCI-KOKUSAIに投資するといいのではないかという手段を思いつく。

具体的な商品としては、「上場ファンドTOPIX」(コード番号は1308)と「iShares MSCI-KOKUSAI」(ティッカー・コードはTOK)は、信託報酬がそれぞれ0.0924%、0.25%とリーズナブルである。

後の問題は、両者の投資配分だ。

資産運用の簡便法

投資配分の決定は、理屈に忠実に行うなら、リスクとリターンの関係を勘案して決まる。リスクについては、大本に帰ると、リスク資産への配分額の決定に当たっても重要なので、具体的なデータに当たってみることにしよう。

リスクの推計方法については、「これが正しい」と一意的に言える方法があるわけではない。そもそも、将来は過去の単純な延長ではないし、過去のデータを使うとしても、何年のデータを使うのがいいのかは、分析者の判断によるとしか言いようがない。長期間のデータを使うと統計で言う「サンプル数」は大きくなるが、遠い過去と現在では株式市場や企業の様子が異なっているから、古いデータの影響を受けたリスク推計値を使うことのマイナス効果も心配だ。

ここでは、運用金額的には今や世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のリスク・データを借りてみよう。GPIFは資産配分の目標となる基本ポートフォリオを策定しており、毎年、その前提となるデータについて検証している。以下の表1は、2007年に行われた検証の際のデータによって計算したGPIFの基本ポートフォリオのリスク値その他だ。

<表1>

GPIFの基本ポートフォリオは、巨額の公的年金の運用ということもあって、かなり保守的な(リスクの小さい)ものとなっているが、このデータを拝借しよう。

ちなみに、2007年度の検証に使われた、GPIFのリスク・データは、2006年度までの過去34年分のデータから計算されたものだ。これだけ長い期間から求められたデータが、今の時点から見た将来についてベストなのか、という点については多少の疑問があるが、大まかなリスクの大きさを把握して、投資配分を考える上ではおおむね大丈夫なのではないかと思われる。

問題の国内株式と外国株式のリスク値を見ると、過去に為替レートの少なからぬ変動があったにも関わらず外国株式の方がリスク値は小さい。これは、MSCI-KOKUSAIが多くの国の株式を含むベンチマークなので、分散投資効果を享受していることによるのだろう。

表2は、国内株式と外国株式に同じ期待リターン(1月8日の長期金利にリスクプレミアムとして6%を足した7.465%を使った)を与えてリスクとリターンとのバランスが最適になるように計算した最適解を示したものだ。

<表2>

この計算によると、大まかには、国内株に4割、外国株に6割、それぞれ先ほど挙げたETFを通じて投資すればいい。それで、機関投資家(運営コストは小さくないはずだ!)とほぼ同等の運用を行うことができるということだ。(注:実質的には、リスクとリターンの効率性が改善している分、機関投資家以上と言えるかも知れない。GPIFのような機関投資家の場合、しばしば、「国内株>外国株」という無用な制約を課することが多く、効率が下がる)

なお、この配分比率は、実用上それほどデリケートに守らなければならないものではない。たとえば、国内株式と外国株式を半々に組み合わせた投資配分のリスクを同じデータを基に計算すると、約16.8%であって、42:58の配分とそう大きな違いはない。

結論

簡単すぎて拍子抜けするかも知れないが、TOPIX連動のETFとMSCI-KOKUSAIに連動するETFに、4:6或いは5:5程度に投資すると、簡便法としてはそれなりに合理的なポートフォリオができる。プロといえども、常にこれをはっきり上回る運用を行うことは簡単ではないはずだ(理屈上は、同じ配分で、ETFよりも手数料が低い運用に委託する以外に明確な必勝法はあり得ない)。

リスクの大きさは時によって変化するが、計算されたリスク値の2倍(統計的には「2標準偏差」)の大きさを一年後の最大限の損失と見て計算しておくと、リスクの見当のつけ方としては、まあまあ大丈夫だろう。

もちろん、「こんな運用では退屈だ!」という人もいるだろうから、個別株への投資も含めて、いろいろと工夫することは悪くないが、いざ勝とうと思うと、この簡便法はなかなか手強い相手のはずだ。

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