「従業員が多すぎる!」

 これは米自動車大手のフォードCEOの発言です。フォードは先週、北米を中心に従業員3,000人を削減すると発表しました。

 同社は最大8,000人の削減計画を準備していて、今後追加でリストラを実施する可能性があります。

 新型コロナの行動制限が解除された後、多くの企業は、消費需要拡大を期待して積極的に雇用を拡大してきましたが、ここに来てヒトの過剰在庫が目立ってきたのです。

 新規失業保険申請件数は、4月に16.5万人台まで下がったあとしばらく20万件で推移していましたが、現在は25万件前後まで増えています。

 失業保険申請件数の上昇は、レイオフや新規採用の凍結を行う企業が増えていることを示唆しています。

 フォードだけではなく、アップルも景気後退に備えて雇用のペースを落とすと発表しました。マイクロソフト、テスラ、メタなどは、すでに人員削減を開始しています。

 8月の米雇用統計の市場予想によると、NFPは29.0万人増。増加数が伸び悩んでいるのは、FIREや大量退職時代を迎えて働き手がいないせいだというのが定説です。

 しかし、企業が採用を絞り始めたことも理由なのかもしれません。あるいはその両方が同時発生している可能性が高く、今後見極めていく必要があるでしょう。

 米国の雇用市場は冷え込んでいるわけではなく、むしろ過熱状態ですが、果たしてこの状況がいつまで続くでしょうか。パウエルFRB議長は、ジャクソンホールの講演で、インフレ率引き下げ達成のために、景気減速を受け入れる覚悟があることを明言しました。

 しかし、緩やかな景気減速を守りながらインフレを急速に引き下げるという芸当は困難を極めます。

 一歩間違えると、景気後退とインフレが同時進行する「スタグフレーション」という、最悪の事態が発生するリスクも多分にあります。

 消費が冷えることで企業収益が悪化し、雇用が減り失業率が上昇するのか。

 それとも、実質所得の減少で仕事に就く人が増えることで、賃金が下がりインフレも収束するのか。

 将来のシナリオは一つではありません。後者のケースは緩やかな経済拡大が期待できますが、前者の場合は不況という結末が待っています。