業界を代表する中国国有企業5社の米上場廃止

 8月12日、中国の国有企業5社がニューヨーク証券取引所(NYSE)における米預託株式を上場廃止する計画を発表しました。以下の5社です。

中国人寿保険

中国アルミニウム

中国石油化工(シノペック)

中国石油天然ガス(ペトロチャイナ)

シノペック上海石化

 いずれも、それぞれの業界を代表する国有企業です。中国人寿保険と中国アルミニウムは8月22日に、シノペックとペトロチャイナは8月29日に上場廃止を申請すると現時点で表明しています。

 ナンシー・ペロシ米下院議長による台湾訪問で悪化する米中関係、7月の統計結果に表れているように(工業生産、小売り、不動産開発投資など軒並み悪化)、なかなか上向いていかない中国経済といった不安要素が残る中での国有大手企業の動向であり、米中間のデカップリングを象徴する出来事であるだけに、市場や世論の関心も高く、今後の動きや流れが注目される今日この頃です。

米上場廃止の経緯

 中国国有大手5社の米市場での上場廃止は表面的な出来事に過ぎません。より重要なのは、事の発端であり経緯です。それらを整理することで、現在地と展望が見えてきます。

 事の発端をさかのぼると、ドナルド・トランプ前政権後半に生じた米中貿易戦争から段階を踏んで激化、拡大していった「米中対立」に行きつきます。2020年12月、米議会が中国企業を念頭に「外国企業説明責任法」を可決し、トランプ大統領(当時)が署名しました。この新たな法律に基づき、米証券取引委員会(SEC)が2021年12月に上場規則を改定しました。

 争点となったのは監査問題です。中国企業は、SEC傘下の公開企業会計監視委員会(PCAOB)による検査に対し、国家安全保障やデータ流出の観点から前向きな対応をしてきませんでした。真実が書かれた監査調書をPCAOBに提出することを拒否してきたということです。同法によれば、2020年12月以降に始まった事業年度で、3期連続で検査を拒んだ場合、上場廃止になります。

 2022年3月以降、SECは米国で上場する中国企業に情報開示を含めた検査受け入れを促すべく、上場廃止リスクがある企業を指定し、リストの公表に踏み切りました。リストインした中国企業は273社に上り、中には今回上場廃止を発表した国有大手5社以外に、アリババ・グループ・ホールディングJDドットコム百度といった民間大手も含まれています。

 この流れの中で、2021年6月にニューヨーク証券取引所に上場した滴滴出行が今年6月に上場廃止を申請、株式の取引を停止しています。