6月15日、中国国家統計局が、消費や投資を含む最新の統計結果を発表しました。3月28日以降、上海市で2カ月続いたロックダウン(都市封鎖)に端を発し、サプライチェーン(供給網)や物流の遮断、個人消費の停滞、失業率の悪化などが懸念されてきました。4月、あるいは1~4月の統計は軒並み低迷しましたが、5月、あるいは1~5月はどうだったのでしょうか。本稿では、最新の統計結果を整理しつつ、中国経済の現在地をひもといていきます。
5月統計:小売売上高3カ月連続減
まずは消費から見ていきましょう。
5月、百貨店やスーパーでの売り上げ、インターネット販売を合計した社会消費品小売総額(小売売上高)は前年同月比6.7%減で、前年割れは3カ月連続。5月の下げ幅は4月の11.1%減から改善しましたが、1~5月でみると前年同期比1.5%減と、1~4月の0.2%減から悪化しました。
ちなみに、統計局は「自動車以外の小売総額」も並列して公表していますが、同額は5月が5.6%減。1~5月は0.5%減と、1~4月の0.8%増からマイナスに転じました。4月から5月にかけて、依然として自動車の消費動向が全体の足かせとなっている現状が見て取れます。5月は4月同様、上海市全域がロックダウン状態にあった経緯を顧みれば、当然の帰結だと言えるでしょう。ちなみに、上海市は中国全土における自動車生産の約10%を占めます。
5月の工業生産は前年同期比0.7%増となり、4月の2.9%減からは改善しました。1~5月では前年同期比3.3%増となり、1~4月の4.0%増と比べると増加率が小さくなっています。
1~5月の固定資産投資は前年同期比で6.2%増、5月は前月比0.72%増となり、1~4月の同5.3%増、4月の同0.82%減から若干の回復傾向にあります。一方、1~5月の不動産開発投資は前年同期比4.0%減となり、1~4月の2.7%減、1~3月の0.7%増から悪化しています。また1~5月の住宅販売は、面積ベースで前年同期比28.1%減、販売額ベースで34.5%減となり、それぞれ1~4月の25.4%減、同32.2%減からさらに悪化しています。関連事業が中国GDP(国内総生産)全体の3割近くを占める不動産をめぐる数値に改善の兆しが見られない現状は、景気全体にとっての不安要素と言わざるを得ません。
5月の農村部を含まない「調査失業率」は5.9%となり、4月の6.1%から若干改善していますが、依然として通年目標である5.5%以内より高く、かつ16~24歳の若年層の失業率が18.4%となっています。これから夏にかけて、過去最多とされる1,067万人の大学卒業生が労働市場に流れ込んでくることを考えると、予断を許さない状況が続きます。
最後に、少し前に発表された5月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比2.1%上昇で、伸び率は4月と同じでしたが、PPI(生産者物価指数)は前年同月比6.4%上昇と、2021年3月以来の低い伸び率となりました。ロックダウンの影響でサプライチェーンが混乱したことによる、工業用原材料の需要低迷などが作用したと思われます。
2022年の中国経済を占う上で6月が勝負の月になる
これらの統計結果を受け、国家統計局は、中国経済の現在地を次のように説明しています。
「全体的に見ると、5月の経済はコロナ禍における不利な影響を徐々に克服してきたと言える。主要な指標は改善の余地を見せており、経済全体にも回復の兆しと勢いが見えてきている。しかしながら、国際環境はこれまで以上に複雑で厳しくなっており、国内経済の回復も少なくない困難と課題に直面している」
先々週のレポートで、5月末に中央政府と上海市政府が立て続けに発表した景気刺激策を紹介しましたが、同局は、これらの政策を着実に実行し、マクロ経済の大局を安定させ、国民生活の保障と改善に努めることで、国民経済の持続的回復を促す必要があるとしています。
5月25日、李克強(リー・カーチャン)首相は全国2,800以上の地域から約10万の経済官僚を前にテレビ画面を通じて談話を発表し、「現在、我々は通年の経済情勢を決定づける肝心な節目に身を置いている」という認識を党・政府全体で共有しました。私の見方では、まさに「6月が勝負」ということです。くしくも、上海市のロックダウンが解除されたのが6月1日です。7月中旬に発表される予定の6月、および4-6月期の経済指標がどうなるのかが非常に大事になってくると思います。
コロナ禍後の経済情勢を顧みると、2022年の中国経済を巡る成長率は、前半が低く、後半が高くなる見込みです。1~3月は4.8%増でした。通年の目標は「5.5%前後」。後半が高くなることを想定すると、4~6月はロックダウンの影響を直接的に受けたけれども、何とか3%台後半から4%台前半で持ちこたえたい、そうすることで後半戦に弾みがつく。ただそのためには、6月の数値(消費、生産、投資など)が低迷した4、5月からV字回復する必要があるというのが私の見立てです。
大型ネット商戦「6・18」は個人消費拡大の起爆剤となるか
中国には「6・18」と称される大型ショッピングイベントがあります。11月11日、ダブルイレブンとも称される「独身の日」に次ぐ、国内2番目のネット商戦です。「11・11」がタオバオを運営するアリババグループが始めたのに対し、「6・18」はJDドットコム(京東商城)が1998年6月18日に創業したことに起因します。
2日後に迫った「6・18」。期待されるのは当然、電子商取引プラットフォームを通じた消費促進剤としての作用です。ウクライナ情勢やゼロコロナなどが影響し、国民が先行きに不安を感じる中、これを機にどれだけの個人消費が促されるか。見ものです。
ちなみに、ECデータの分析を専門とする星図数据のデータによると、2021年、アリババのTモール(天猫)、JDドットコム、拼多多(ピンドゥオドゥオ)の「6・18」商戦における取引額は5,784億元(858億9,000万ドル)に達し、2020年より26.5%増加しました。
「6・18」を前に、私は2015年11月11日前夜の光景を思い出しました。11月10日、中央政府の首長として中国経済を統括する立場にある李克強首相が、アリババの創始者である馬雲(ジャック・マー)に直接電話をし、「11・11が打ち立てた業績を祝賀する。EC業者と広範な消費者によろしく伝えたい」と言ったのです。
その約1年前、2014年10月31日、李首相は馬氏を含めた国内の著名な企業家を北京に招待し、経済情勢に関する座談会を主催しました。会議の途中、馬氏が「民間企業家は、政府からより多くの信頼を得たいと望んでいます」と呼びかけると、李首相は次のように返答しました。
「今日、皆さまを座談会に招待している事実自体が、我々の信頼を代表している。民間企業家に対して、政府は信頼するだけでなく、依存しなければならない!」
李首相からすれば、政府は政策やルールを決めたり、場合によっては景気刺激策を打つことはできる、ただ実際に経済を動かすのは企業家、特に広範な消費者や業者とつながる民間の企業家なのだという立場を表明したかったのでしょう。
「政治の季節」である2022年、特に「勝負の月」である6月、まさに政府と企業家間の良質なコラボレーションが試される年になるでしょう。









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