インフレ懸念で米国株不安定な中、円安進行などを支援に相対的に底堅い展開が継続
直近1カ月(5月13日~6月10日)の日経平均株価は5.3%の上昇となりました。5月12日の2万5,688円をボトムとした上昇基調が続き、6月9日には一時、3月25日の戻り高値2万8,338円を上回りました。
同期間において、ダウ工業株30種平均は2.5%の下落、ナスダック総合指数は3.9%の下落であったため、前1カ月期間に続いて相対的に日経平均は底堅い動きとなっています。なお、東証マザーズ指数に関しても5.9%の上昇となりましたが、年初来の騰落率で見ると30.4%の下落であり、日経平均の3.4%の下落と比べて、まだまだ戻りは鈍い状況といえます。
世界的なインフレ傾向が続く中、金融引き締め強化に対する警戒感から、米国市場は引き続き不安定な相場展開が継続しています。欧州においても、ECB(欧州中央銀行)が7月の利上げ実施を表明するなどタカ派姿勢に傾斜してきています。こうした中で、相対的に日本株が堅調だった要因としては、以下のものが挙げられるでしょう。
- 為替相場での一段のドル高・円安進行(6月6日には5月高値を更新し135円が視野に入る水準へ)
- 米国株と比べてバリュエーション調整余地が小さかったこと(もともと日本株は相対的に割安であった)
- 経済活動再開に伴う景気回復余地が他の主要国と比べて大きいこと
- 岸田文雄政権の金融市場に対する政策懸念が後退したこと
などです。
とりわけ、円安に関しては、輸出企業の企業収益改善期待とともに、海外投資家の資金流入期待も高めさせたと考えられます。海外投資家が円安局面で日本株を買えば、その後の円高反転に伴って差益が生じることになります。なお、2022年3月期の決算発表が一巡して、ガイダンスリスクが通過したことなども、日本株上昇の一因と考えられます。
この期間で上昇が目立ったのが大阪チタ(5726)や東邦チタ(5727)で、ロシアやウクライナ産の供給懸念に伴うスポンジチタンの価格上昇期待が要因となりました。また、川崎重工(7012)、IHI(7013)、三菱重工(7011)などの重工大手3社も買われました。防衛予算増額方針を受けて、防衛関連の主力株としてメリット期待が高まったようです。
ほか、円安の進行を受けて三菱自動車(7211)やSUBARU(7270)などの自動車株、経済活動正常化に伴う月次売上改善でH2Oリテ(8242)、三越伊勢丹(3099)などの百貨店株にも買いが優勢となりました。
一方、下落率上位に目立った特徴は少なかったですが、日清製粉(2002)、山パン(2212)、日清オイリオ(2602)など、食料品の一角が多く上位にランクインしています。原材料費上昇の影響を懸念する動きになったとみられます。
その他注目された動きとしては、任天堂(7974)にサウジ政府系ファンドの大量取得が明らかになりました。日本郵船(9101)は1:3の株式分割発表が一時買い材料視されました。
世界的な金融引き締め懸念再燃で、相対的にバリュー株に買い安心感
6月10日に発表された米国の5月CPI(消費者物価指数)は前年同月比8.6%の上昇となりました。4月実績であり、市場コンセンサスでもあった8.3%の上昇を上回り、さらに、食品とエネルギーを除くコアCPIも市場予想を上回る伸びとなりました。
これにより、インフレピークアウトへの期待は大幅に後退、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融引き締め強化や長期化の流れが強まるとの見方が再燃してきています。
従来は、6月、7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.5%の追加利上げを実施し、9月には利上げ幅が縮小するとの見方もありましたが、今回のCPIを受けて、9月の0.5%利上げはもちろん、7月の0.75%利上げや8月の緊急利上げなども警戒される形となっています。
直近の株価下落を受けて、6月は0.5%の利上げにとどまる見通しですが、ここであく抜け感が強まる可能性は低下したといえるでしょう。とりわけ、グロース株には今後も買い手控えムードが強まる見通しです。
米国株に関して、S&P500種指数のPER(株価収益率)水準は17倍程度まで低下し、通常時とされる15〜17倍レンジの上限まで到達しています。過度な割高感は解消しましたが、あくまでレンジ上限であり、目先は一段の調整余地も残されています。日本株も円安など相対的な株価の下支えになる可能性はありますが、米国株に連動する形での下落余地は残ります。
目先、5月12日安値から6月9日高値までの半値押し水準が2万7,000円前後であり、一応の下値メドとなりますが、仮にFOMCがネガティブインパクトにつながった場合は、5月安値に迫る2万6,000円レベルが視界に入りそうです。
ちなみに、円安進行に関しても、短期的にはプラス材料視されても、中期的には、インフレ+円安による輸入物価高により、個人消費の減速につながる公算が大きいといえます。ここからの一段の円安進行を買い材料視する動きは限定的になりそうです。ほか、北京市での新型コロナ感染者数再拡大もあって、中国の経済政策の行方も引き続き不透明要因となってきそうです。
グロース株が買いにくい中では、あらためてバリューへの資金シフトが進むと考えられますが、中でも、足元で大幅に調整した海運株などは押し目買い妙味となりそうです。日本郵船(9101)や商船三井(9104)などは配当利回り10%を優に上回る水準にあり、リバウンド余地は大きいとみられます。
また、米長期金利の上昇傾向が強まる状況下にあっては、短期資金の戻り売り圧力が相対的に小さいとみられる金融関連株なども優位といえそうです。
そのほかでは、参院選が7月10日に投開票予定とされています。むしろ参院選後に議論が進展しやすくなるとみられる、防衛関連、GoTo・インバウンド関連、原発関連などは引き続き要注目といえるでしょう。インバウンド需要と合わせて、国内での外出機会増加に伴う化粧品需要の回復なども想定されます。
中期的には、小麦価格の大幅な上昇傾向が強まると考えられ、米への食シフトが予想されます。肥料や農薬などのほか、農業機械の需要増加につながりそうです。さらに、コメの流通量増加や価格上昇は米穀卸企業などに大きなメリットとなってきそうです。