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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
【日本株】米インフレ再加速?ナスダック急落 ECBも7月利上げへ。どうなる日経平均?」 

先週は、米国株が急落する中、日本株・中国株が堅調

 先週(6月6~10日)の日経平均株価はほぼ横ばいでした。1週間で62円(0.2%)上昇し、2万7,824円となりました。円安・リオープンによる日本企業の業績拡大期待から週前半は上昇、9日に一時2万8,389円を付けました。ただし、その後、欧米株下落の影響で、10日には422円安となったため先週1週間ではほぼ横ばいとなりました。米国・欧州の株価は、世界的なインフレ加速・金融引き締めが続く懸念から先週は、再び急落しました。

 先週も以下の通り、欧米株が急落する中、リオープン期待で日本・中国の株価指数が堅調でした。

先週(6月6~10日)の世界の主要株価指数の騰落率

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 10日に発表された5月の米インフレ率が、米国株の急落につながりました。5月のインフレ率は8.6%で、エネルギー価格などの再加速が懸念されました。6月14~15日のFOMC(米公開市場委員会)で、0.5%の利上げが行われるのはほぼ確実ですが、そこでジェローム・パウエル議長からさらに引き締めを急ぐタカ派コメントが出される懸念が強まりました。

 ECB(欧州中央銀行)が7月にも利上げを再開すると、6月9日に表明したことも懸念材料です。既に今月オーストラリア・インド・ペルーなどが利上げを実施しており、当面、世界的に金融引き締めが広がる見込みであることが、世界の株式市場にネガティブです。

米国主要株価指数(ナスダック・S&P500・NYダウ)の動き:2019年末~2022年6月10日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成。2019年末を100として指数化

 一方、米国株と比較すると、日本株・中国株は足元、相対的に堅調です。

ナスダック・日経平均・上海総合指数の動き比較:2019年末~2022年6月10日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成。2019年末を100として指数化

 中国は6月1日、上海のロックダウン(都市封鎖)を解除しました。2カ月にわたるロックダウンで中国景気だけでなく、日本や世界の景気にも悪影響が及ぶことが懸念されていましたが、解除を受けて安堵が広がりました。中国政府は、4-6月の中国GDP(国内総生産)が落ち込むことを防ぐために巨額の経済対策で景気を押し上げる構えです。

 日本でも、リオープン(経済再開)による消費回復が見込まれています。リオープン期待で足元は日経平均・上海総合指数が堅調です。

米インフレ再加速の不安で米国株は急落

 6月10日に発表された5月の米インフレ率(CPI総合指数の前年比上昇率)は8.6%で、4月の8.3%を上回りました。4月には、インフレ率が夏場に向けて低下していく期待が出て、ナスダックの急反発につながりましたが、その期待は5月のインフレ率が出たところで、打ち砕かれました。5月にはインフレの再加速が見られ、夏場にかけて米インフレ高止まりの可能性が高まりました。これを受けて、先週のナスダックは再び急落しました。

米インフレ率(CPI総合・コア指数前年比上昇率)の推移:2020年1月~2022年5月

出所:米労働省

 4月に一時緩んだインフレに再加速の兆(きざ)しが見えました。4月に前月比で6.1%低下したガソリン価格は5月に前月比で4.1%上昇し、前年比では48.7%の上昇率となりました。米国でガソリン価格は足元さらに高値を更新しつつあり、夏場にかけて米インフレが高止まりする要因となります。

 エネルギー以外のインフレも進んでいます。食料品は前年比で10.1%、新車価格は同12.6%、中古車価格は同16.1%上昇しています。

 6月3日に発表された5月の雇用統計が強く、特に平均時給が前年比で5.2%上昇していたことが警戒されました。5月の雇用統計・消費者物価とも、米国のインフレ高止まりを示唆するものでした。

日経平均も米国株急落の影響から、今週は下落か

 今週の日経平均は、米国株急落の影響をうけ、反落が予想されます。6月14~15日のFOMCでFRB(米連邦準備制度理事会)が0.5%の利上げを行い、さらにタカ派コメントを表明する可能性があることへの警戒も続きます。

 ただし、毎週述べていることですが、日本株は割安で長期的には良い買い場を迎えていると判断しています。短期的な下落はまだ終わっていないことを意識して、時間分散しながら買い増ししていくのが良いと思います。

 なお、3月以降、米国株が弱い中で日本株の堅調ぶりが目立っています。日本株が堅調な理由は毎週のレポートで書いている通り、以下4つです。

日本株が相対的に堅調な4つの理由

【1】円安

 5月の米雇用統計・米消費者物価とも強く、FRBが引き締めを急ぐ環境が続くと見込まれることから、先週は、一時1ドル134円台まで円安が進みました。
 円安は日本の企業業績には大きなプラス要因です。円安による輸入物価の上昇が国民生活にマイナスなので「悪い円安」とメディアで言いたてていますが、企業業績にはプラス効果が大きいと言えます。
 先週、急激な円安が進んでいることに対し、財務省・日本銀行・金融庁の3者が共同で「急激な円安が望ましくない」として対策を考える旨、表明しました。日銀の黒田総裁が円安をけん制する声明を出すのは今回が初めてです。これが単なる口先介入なのか、あるいは6月16~17日の金融政策決定会合で円安を抑えるための何らかの策を打ち出すのか、注目されます。

【2】リオープン(経済再開)への期待

 日本は、ウィズコロナでリオープン(経済再開)への期待が高まっています。コロナで抑え込まれていた消費が一時的に大きく伸びる可能性があります。中国上海のロックダウン解除も日本株に追い風です。日本経済は、中国経済の影響を大きく受けると考えられているからです。

【3】日本の企業業績:増益が続くと予想される

 円安・リオープンの効果から、新年度(2023年3月期)も小幅ながら増益が見込める可能性があります。東証プライム上場主要841社の連結純利益が今期5.8%の増益になると楽天証券では予想しています。

【4】「インベスト・イン・キシダ」、資産倍増策への期待

 岸田首相が提唱している「新しい資本主義」では、株式投資にネガティブな提言が多く警戒を生じていました。ところが、先般、岸田首相がロンドンで行った講演では、「インベスト・イン・キシダ」と述べ、株式投資にフレンドリーな発言が出たことが注目されました。岸田政権の政策スタンスに変化が生じる兆しと期待を生じています。

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