毎週金曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:レーザーテック(6920)、東京エレクトロン(8035)
レーザーテック
1.2022年6月期3Qは15.6%減収、42.7%営業減益
レーザーテックの2022年6月期3Q(2022年1-3月期)は、売上高166.36億円(前年比15.6%減)、営業利益37.39億円(同42.7%減)となりました。今2Qの売上高278.19億円(同45.9%増)、営業利益107.84億円(同43.3%増)と比較しても減収減益となりました。
今3Qの売上総利益率は46.9%となり、今1Q58.6%、今2Q51.4%と低下しています。今期から少量ながら納入、検収がはじまった「ACTIS A150」(3ナノ以降のフォトマスク欠陥検査装置でEUV光を光源とする。価格(リストプライス)は非公表だが推定価格60~80億円/台)の初期ロットの採算が悪いためです。この採算悪化自体は会社側の想定通りです。また、研究開発費、研究開発費以外の販管費が増加したため、営業利益率は今1Q22.2%、今2Q38.8%、今3Q22.5%と今3Qは低水準でした。
今3Qの品目別売上高を見ると、フォトマスク欠陥検査装置を中心とする半導体関連装置が130.80億円(同17.7%減)、その他が3.50億円(同80.2%減)と減少しましたが、サービスは32.06億円(同56.5%増)と大幅増となりました。顧客先での稼働装置増加に伴い増収が続いています。
今3Q業績は会社側の想定内に収まった模様で、想定を上回るものではなかった模様です。
表1 レーザーテックの業績
表2 レーザーテック:四半期売上高内訳
2.受注残高が積みあがる。2022年6月末受注残高の会社予想は3,328億円
今3Qの全社受注高は795.64億円(前年比3.8倍)、このうち半導体関連装置受注高は747.03億円(同4.1倍)となりました。全社受注高は過去最高だった今1Q1,083.07億円には届きませんでしたが、今3Qはそれに次ぐ過去2番目の受注高となりました。
今3Qの受注の中心は、最新型のフォトマスク欠陥検査装置「ACTIS A150」(3ナノ対応。EUV光源を使う。ペリクル(フォトマスクに装着する防塵カバー)有り無し両方のラインで使える。このタイプはレーザーテック独占)と5ナノ時代の主力フォトマスク欠陥検査装置「MATRICS X8ULTRA」(3ナノ時代でもペリクルなしの場合に使える。ディープUV光を使う)だった模様です。価格(リストプライス)は「MATRICS X8ULTRA」が約15億円/台、「ACTIS A150」は推定60~80億円/台なので、3ナノ向けの「ACTIS A150」だけでなく、5ナノ、3ナノ向けの「MATRICS X8ULTRA」も相当数の受注があったと思われます。
この結果、今1-3Q累計受注高は2,584.45億円(同3.3倍)となり、2022年12月末受注残高は3,406.99億円と2021年6月末1,358.19億円から大幅に増加しました。前倒し受注高だけでなく、「ACTIS A150」の場合は追加発注も多くなっている模様です。このような受注の動きから、会社側は今期受注高予想を前回予想の2,000億円(前年比77.1%増)から今回予想では2,800億円(同2.5倍)へ上方修正しました(うち半導体関連装置は1,850億円(同78.6%増)から2,650億円(同2.6倍)へ上方修正)。2022年6月末受注残高予想も2,528.19億円から3,328.19億円へ上方修正されました。
グラフ1 レーザーテックの全社受注高
表3 レーザーテックの品目別受注高
表4 レーザーテックの受注高、受注残高内訳:通期ベース
3.2023年6月期も高水準な受注高が予想される
2022年6月末予想受注残高3,328.19億円の中身を見ると、TSMCの場合2022年後半に量産を開始する予定の3ナノと3ナノの進化版で2023年後半に始まる3ナノプラス向けの受注が多い模様です。また、この受注残高の多くが2023年6月期、2024年6月期の納期、検収となっている模様であり、2023年6月期よりも2024年6月期の納入、検収が多くなる見込みですが、これは、検査装置はライン構築の最終段階で納入が増加し、その後は生産能力が増強されるにつれて設置台数が多くなるためです。また、一部ですが2025年6月期納入の受注案件もある模様です。
来期2023年6月期は少なくとも前半は高水準の受注が続くと予想されますが、これは3ナノの生産能力が増強されるためです。2023年6月期通期でも受注高は横ばいか若干減少する程度と思われます。また、このまま半導体景気が続けば、2025年6月期は3ナノ増強と2025年末に量産開始予定の2ナノ向けの受注が増加すると予想されるため、受注高は再び増加に転じる可能性があります。
なお、3ナノラインのフォトマスクで主流になるのがペリクル有りなのか、ペリクル無しなのか、今のところ不明です。会社側では現時点では生産ラインによってペリクルあり、なしのラインがある状態になると考えています。そのため、「ACTIS A150」だけでなく、「MATRICS X8ULTRA」と2022年4月に発売した機能強化版である「MATRICS X9ULTRA」(価格は2,000万ドル/台(約26億円))の受注が2023年6月期、2024年6月期も続くと予想されます。
また、3ナノまたは2ナノで新型マスクである位相シフトマスクが使われたり、位相欠陥(光を反射するための多層膜の周期を乱す欠陥)を調べる必要がある場合は、EUV光を使わなければ検査できないため、「ACTIS A150」が使われることになります。
2ナノ向けのスペックは既に決まっている模様であり、ペリクルを使う場合は今の「ACTIS A150」がそのまま使える模様です。ただし、2ナノ向けのEUV露光装置が「ハイNA」と言われる次世代型になる場合は、現行の「ACTIS A150」は使えなくなるため、現在ハイNA対応機種を開発中です。
4.2023年6月期、2024年6月期と高率の増収増益が予想される
2022年6月期楽天証券予想業績は、今3Qまでの業績が会社想定内に収まっているようなので、前回予想の売上高870億円(前年比23.8%増)、営業利益290億円(同11.2%増)を、会社予想と同じ水準である売上高830億円(同18.2%増)、営業利益270億円(同3.6%増)に下方修正します。
前述したように、今期末予想受注残高3,328.19億円の納期は多くが2023年6月期、2024年6月期となっている模様です。ここで2022年6月末の予想受注残高3,328億円の約90%が2023年6月期、2024年6月期に納入され検収を完了すると想定し、約90%(約3,000億円)の約40%が2023年6月期、約60%が2024年6月期に収益認識されるとすると、各期の売上高は概ね、2023年6月期1,200億円、2024年6月期1,800億円に各期の当期受注当期納入・検収分を加えたものになると思われます。
また、「ACTIS A150」の採算改善、新製品の「MATRICS X9ULTRA」が高価格な分だけ採算が良いと思われることを考慮すると、前回の楽天証券業績予想、2023年6月期売上高1,350億円(前年比62.7%増)、営業利益500億円(同85.2%増)、2024年6月期売上高1,930億円(同43.0%増)、営業利益800億円(同60.0%増)は現時点では達成可能と思われるため、今回の業績予想はこの前回予想を維持します。
表5 レーザーテックの品目別売上高予想:通期ベース
5.今後6~12カ月間の目標株価は前回の3万7,000円を3万円に引き下げる
今後6~12カ月間の目標株価は、前回の3万7,000円を今回は3万円に引き下げます。
前回までは2024年6月期楽天証券予想EPS(1株当たり利益)と想定PEG=1倍強から目標株価を算出しました。しかし、アメリカの金利上昇に伴い、ハイテクグロース株の投資評価期間が従来よりも短い期間になると思われることから、今回は2023年6月期楽天証券予想EPS 430.2円に、2023年6月期楽天証券予想営業増益率85.2%、想定PEG=0.8倍(想定PEG=1を保守的に20%ディスカウントした)より想定PER(株価収益率)を約70倍として当てはめました。
レーザーテックは、中長期では今も投資妙味がある銘柄と思われます。目先は、アメリカの金利上昇に伴うハイテクグロース株の評価引き下げ、アメリカで指摘され始めたファンドの解約、清算など、半導体関連株には逆風が吹いています。しかし、今期決算が発表され、会社側の来期予想が発表されると、レーザーテック株に対する見方が変わる可能性があります。まだ少し先になりますが、8月の2022年6月期決算発表を注視したいと思います。