ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始(2022年2月24日)して2カ月半が経過しようとしています。5月9日、ロシアのプーチン大統領は「第二次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利して77年の記念日」に開催された記念式典で演説しました。注目されていた「戦争状態」の宣言はしませんでしたが、「ロシアにとって受け入れがたい脅威が直接、国境につくり出され、衝突は避けられなかった」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻を改めて正当化しました。泥沼化するウクライナ戦争ですが、プーチン大統領としてもロシアとして追求する目標が達成されるまで、引くに引けないジレンマに直面している現状が見て取れます。

 では、この戦争はいつまで続くのか?

 先日議論をしたワシントンD.C.在住の政策関係者は、「この戦争がいつまで続くかによって、企業家にとってのビジネスプランや投資家の投資戦略は大きく変わってくる」という指摘をしていました。私もそう思います。トウシルのトップページに「ウクライナ・ショック 投資環境はどうなる?」というバナーが長らく貼られているのも、同様の問題意識から来ていると、一著者として感じます。

 本レポートでは以下、私が専門にする中国がウクライナ戦争の現状と先行きをどう捉えているのか、その過程で、ロシア、ウクライナ、米国、欧州といった鍵を握る国とどう連携しようとしているのか、そもそも、中国は「戦争を終わらせる」ことをどう思っているのか、などを分析していきます。投資家の皆さまが「この戦争はいつ終わるのか?」を判断する根拠になれば幸いです。

「米国の目標は戦争を終わらせることではなく、長引かせることである」

 特にこの2週間、中国政府内で外交政策に関わる関係者や米中関係、ウクライナ情勢の分析に従事する政府系シンクタンクの研究者らと議論していると、このフレーズが聞こえてきます。習近平(シー・ジンピン)国家主席率いる中国共産党指導部の認識であり、立場であると私は理解しています。

「米国にウクライナ戦争を終わらせる気は毛頭ない。むしろ長引かせることで権力を強化し、利益を拡大しようとしている」

 このような認識、立場は、ロシアによる軍事侵攻後、直ちに形成されたわけではなく、中国の党、政府、軍、国有企業、シンクタンク、大学などあらゆる機関の関係者が、2カ月ほどの時間をかけて密に観察、分析を加えた上で行きついた「結論」だと言えます。

 参考になるのが、5月6日、楽玉成(ラー・ユーチェン)中国外交部筆頭副部長が中国公共外交協会と中国人民大学が共同主催した『世界20カ国シンクタンクオンライン対話』に出席した際に語った次の見解です。習近平政権としての現状認識を如実に体現しています。

「米国のテレビドラマ『ハウス・オブ・カード』に出てくる政治家に次のような名言がある。『政治には犠牲が必要だ。もちろん、それは他者の犠牲だ』。ウクライナ戦争は欧州の土地で発生している。欧州はその影響を最も直接的に受け、損失は最大である」

「中国のあるネットユーザーは欧州が昨今直面するジレンマを次のように描写している。『欧州では食料が不足し、エネルギーが不足し、難民が増え、失業が増え、経済が難しくなった。そして、戦争がいつ終わるかは分からない』。一方の米国は大西洋の遥か対岸に身を潜め、バランスを取り、軍事産業は大いにもうかり、ガスや石油といった資源は大いに売れている。金融資本は本国に回帰している。受け入れた難民も十数人らしい」

「欧州と米国の間に存在するこの鮮明なギャップは、なぜ一部国家が危機に油を注ぐことばかり行い、ロシアとウクライナ間の停戦協議を妨害すべく奔走しているのかを的確に説明している。はっきり言えば、その国家は戦争特需を得たいのだ。ウクライナを犠牲にし、欧州をコントロールし、ロシアを弱体化させ、覇権と強権を延命させたいのである。一石二鳥どころではない。好きでやっていることだから疲れすら感じないのだろう」

 3段目における「一部国家」、「その国家」が米国を指しているのは明確です。中国は、ウクライナ戦争勃発後約2カ月の観察と分析を経て、米国は、リスクとコストはウクライナやエネルギーでロシアに大きく依存する欧州諸国に払わせ、これらの国家がロシアから離れる過程で自国の軍事、エネルギー産業がもうかるように仕向け、結果的に、ロシアのユーラシアにおける国力や影響力を弱体化させようとしている、という結論に至ったのです。

 3月26日、バイデン米大統領は訪問中のポーランドで行った演説で「この戦争は数カ月、数年の時間内で勝利を得ることはできないだろう。我々は将来の長期的な闘争に備え強くならなければならない」と語りました。中国は同大統領によるこの発言を「米国は戦争を終わらせるつもりなど毛頭ない」と解釈し、その理由を「戦争が長引くことが米国に有利に働くからだ」と理解した、というのが私の分析です。

 また、5月10日、ヘインズ米国家情報長官が上院軍事委員会の公聴会で証言し、「プーチン大統領は東部ドンバス地域にとどまらない目標達成に向け、長期的な紛争への準備を進めている」という分析を披露しています。

 整理すると、現状は次の3点に集約できるでしょう。

(1)ロシアは目標達成がなされていない現状では引くに引けない、故に戦争は長期化する。
(2)米国は(1)を直視し、ロシアとの長期的な闘争に備えるべく準備を進めている。
(3)中国は(1)(2)を直視しつつ、米国は引くに引けないプーチン大統領の苦境を逆手に取り、戦争を長引かせることでロシアを弱体化させ、米国の国益増大につなげようとしている、と「解読」している。