景気を支えるための三つの方策

 4月19日、IMF(国際通貨基金)は2022年の世界経済成長率見通しを改定し、3.6%増としました。前回1月の予測では4.4%増でしたから大幅に下方修正したことになります。ウクライナ情勢などに端を発する資源高の影響を受け、インフレ率は先進国・地域で5.7%、新興・発展途上国では8.7%と、大幅に上方修正しました。

 中国の成長率は4.4%増に修正。1月予測の4.8%から下方修正され、中国政府が定める「5.5%前後」より1.1ポイントも低く見積もっているのが現状です。その背景にはウクライナ情勢だけでなく、後述するロックダウンの影響も考慮したものと思われます。

 先行きが懸念されるなか、中国政府はどのように景気を下支えしていくのか。ウクライナにおける戦争は中国一国の努力で止めることはできませんし、世界情勢が中国経済に与える打撃を逃れることもできません。国内的にできることをしていくしかないというのが現状でしょうが、中国政府にできることは大きく三つあると考えています。

 一つ目が、マクロ政策の有効活用です。2022年1-3月の統計結果が発表される直前、中国人民銀行(中央銀行)は預金準備率を0.25%引き下げました。一部中小銀行に対してはさらに0.25%引き下げるとしています。これによって約5,300億元(約10兆円)の長期資金が市場に放出される見込みです。

 インフレリスクが高まるなか、中央銀行は、金利の下げ幅を小さくする、一気にではなく小刻みに下げていくなど金融緩和を慎重に進める方針ですが、それでも中国政府は引き続き金融緩和を効果的なツールと考えているようです。

 そして財政出動です。私自身は、中国政府は2022年、金融緩和よりも財政出動を駆使して景気を支えていくとみています。その過程で重要になるのが、2008年のリーマン・ショック後に陥った「4兆元の罠」です。

 当時、景気回復のために中国政府は4兆元規模の財政出動に乗り出しましたが、過剰生産能力問題の深刻化やシャドーバンキング(影の銀行)問題など後遺症を残す結果となりました。中央政府として投じた財政効果をどれだけ健全かつ透明性を担保した形で実体経済につなげることができるか。その過程で中央政府と地方政府がどんな政策協調をするか。成長率確保だけの無駄なインフレ投資を避けることができるかなどが課題となるでしょう。

 二つ目が、「市場寄り」のシグナルを発することです。前回レポートで紹介したように、4月11日、李克強(リー・カーチャン)首相が地方政府の首長と座談会を開き、「市場の期待値を下げるような政策を打ちだしてはならない。仮にそんな政策があれば是正せよ」と明言しましたが、このようなメッセージは国内企業家や海外投資家の中国経済に対する自信を回復する上で効果的だと言えます。

 3月16日には、劉鶴国務院副総理が金融安定発展委員会の会議を開き、以下の点を指摘しています。

(a)不動産企業に関しては、有効なリスク緩和の対応案を研究しつつも、新たな発展のためのモデル転換を提示すべき

(b)中国概念株(China Concepts Stock)に関しては、米中の監督機関同士で良好な意思疎通が行われ、具体的な協力案を打ち出すべく動いている。中国政府は引き続き各分野の企業が海外に上場することを指示していく

(c)プラットフォーム経済における大手企業の再編を穏便かつ迅速に終了させ、赤信号も青信号もきっちりと設置した上で、同経済の平穏、健全な発展を促し、国際競争力を向上させる

 このようなシグナルは、昨年の「規制ラッシュ」を受けて、中国経済の先行きを不安視する市場関係者に自信を与えるものと言えます。