中国の2022年1-3月のGDP(国内総生産)成長率は物価の変動を除いた実質で前年同期比4.8%増でした。2021年10-12月の4.0%増から伸び率は拡大しましたが、3期連続で5.0%を下回りました。中国政府が定める2022年の成長率目標は「5.5%前後」で、目標からは程遠い現状が浮き彫りとなりました。より重要なのは、数字そのものよりも、内訳と背景です。それらをひも解くことで、中国経済の現在地が浮き彫りになると考えます。今回、解説していきます。

中国政府は景気の現状を楽観視していない

 4月18日、中国国家統計局は「総体平穏」(全体的に安定運行)という見出しで2022年1-3月のGDPが前年同期比4.8%増という統計結果を発表しました。この見出しを見ながら、私は「現状や先行きを楽観視していないな」と即座に感じました。というのも、結果が順調であれば、こうした消極的な表現ではなく、「開局良好」(スタートは良好)という類の言葉を使うのが中国政府の習わしであるからです。

 中国政府が悲観視するのも無理はありません。同日に発表された他の数値をみていきましょう。

 2022年1-3月の小売売上高は3.3%増でしたが、直近の3月は3.5%減と落ち込みました。しかも、この数値には上海などにおける、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一部ロックダウン(都市封鎖)の影響は反映されていません。4月、および4-6月はさらに落ち込む可能性があるということです。

「成長重視」の2022年、党・政府指導部が重視するのは投資による景気の下支えです。2022年1-3月の固定資産投資は9.3%増、うちインフラ投資は8.5%増と堅調でした。これらの数値が発表された時点で、インフラ投資促進のための2022年度地方特別債(3兆6,500億元)は全額発行されており、投資が景気をどうけん引していくかにより一層の注目が集まっていると言えます。

 一方で、不動産投資は0.7%増と伸び悩みました。不動産販売に関連する数値をみると、面積で13.8%減、金額で22.7%減と、中国GDP全体の3割近くを占める不動産関連業界の不振が投資の分野にも著しく表れています。不動産がどこまで回復するかによって、景気の動向は左右されますから、注目分野となります。

 先週のレポートで物価上昇のリスクについて触れましたが、私が物価と同様に懸念するのが雇用の動向です。3月の「調査失業率」(調査できる範囲における失業率で、農村部における失業率はおおむね含まれない)は前年同月比5.8%と、伸び率は2月より0.3ポイント上昇。中国政府は今年の目標を5.5%以内と定めていますから、不安要素と言えます。 

 とりわけ懸念されるのが若年層で、16~24歳の同失業率は3月に16.0%を記録。夏には過去最多となる1,067万人の大学卒業生が労働市場に流れ込んできます。

 物価と並んで、雇用という経済指標は社会不安につながり、政治の安定を震撼(しんかん)させるほどの威力を持っています。成長重視、安定最優先と方針を定めた2022年、安定成長のなかでいかに雇用を保証していくかが重要な指標になると考えます。

景気を支えるための三つの方策

 4月19日、IMF(国際通貨基金)は2022年の世界経済成長率見通しを改定し、3.6%増としました。前回1月の予測では4.4%増でしたから大幅に下方修正したことになります。ウクライナ情勢などに端を発する資源高の影響を受け、インフレ率は先進国・地域で5.7%、新興・発展途上国では8.7%と、大幅に上方修正しました。

 中国の成長率は4.4%増に修正。1月予測の4.8%から下方修正され、中国政府が定める「5.5%前後」より1.1ポイントも低く見積もっているのが現状です。その背景にはウクライナ情勢だけでなく、後述するロックダウンの影響も考慮したものと思われます。

 先行きが懸念されるなか、中国政府はどのように景気を下支えしていくのか。ウクライナにおける戦争は中国一国の努力で止めることはできませんし、世界情勢が中国経済に与える打撃を逃れることもできません。国内的にできることをしていくしかないというのが現状でしょうが、中国政府にできることは大きく三つあると考えています。

 一つ目が、マクロ政策の有効活用です。2022年1-3月の統計結果が発表される直前、中国人民銀行(中央銀行)は預金準備率を0.25%引き下げました。一部中小銀行に対してはさらに0.25%引き下げるとしています。これによって約5,300億元(約10兆円)の長期資金が市場に放出される見込みです。

 インフレリスクが高まるなか、中央銀行は、金利の下げ幅を小さくする、一気にではなく小刻みに下げていくなど金融緩和を慎重に進める方針ですが、それでも中国政府は引き続き金融緩和を効果的なツールと考えているようです。

 そして財政出動です。私自身は、中国政府は2022年、金融緩和よりも財政出動を駆使して景気を支えていくとみています。その過程で重要になるのが、2008年のリーマン・ショック後に陥った「4兆元の罠」です。

 当時、景気回復のために中国政府は4兆元規模の財政出動に乗り出しましたが、過剰生産能力問題の深刻化やシャドーバンキング(影の銀行)問題など後遺症を残す結果となりました。中央政府として投じた財政効果をどれだけ健全かつ透明性を担保した形で実体経済につなげることができるか。その過程で中央政府と地方政府がどんな政策協調をするか。成長率確保だけの無駄なインフレ投資を避けることができるかなどが課題となるでしょう。

 二つ目が、「市場寄り」のシグナルを発することです。前回レポートで紹介したように、4月11日、李克強(リー・カーチャン)首相が地方政府の首長と座談会を開き、「市場の期待値を下げるような政策を打ちだしてはならない。仮にそんな政策があれば是正せよ」と明言しましたが、このようなメッセージは国内企業家や海外投資家の中国経済に対する自信を回復する上で効果的だと言えます。

 3月16日には、劉鶴国務院副総理が金融安定発展委員会の会議を開き、以下の点を指摘しています。

(a)不動産企業に関しては、有効なリスク緩和の対応案を研究しつつも、新たな発展のためのモデル転換を提示すべき

(b)中国概念株(China Concepts Stock)に関しては、米中の監督機関同士で良好な意思疎通が行われ、具体的な協力案を打ち出すべく動いている。中国政府は引き続き各分野の企業が海外に上場することを指示していく

(c)プラットフォーム経済における大手企業の再編を穏便かつ迅速に終了させ、赤信号も青信号もきっちりと設置した上で、同経済の平穏、健全な発展を促し、国際競争力を向上させる

 このようなシグナルは、昨年の「規制ラッシュ」を受けて、中国経済の先行きを不安視する市場関係者に自信を与えるものと言えます。

不安要素としてのロックダウン

 三つ目がコロナ対策です。足元、上海ではコロナの感染者数が2万人以上(無症状者含む)で高止まりしており、人口約2,500万人の上海市は依然として局地的なロックダウン状態にあります。年初に続いて、陝西省西安市でもロックダウンが始まりました。河南省鄭州市、江蘇省蘇州市でも同様の措置が取られており、この流れが全国的に広がれば、供給網や個人消費への影響は避けられず、景気の下振れリスクはさらに顕在化するでしょう。

 以前もレポートで扱ったように、「ゼロコロナ」はすでに実質見直され、「動態的ゼロコロナ」という方針の下、経済活動への影響を最小化することが各地方の首長に求められています。とはいえ、中国のコロナ対策においてベースにあるのは「ゼロコロナ」です。感染者数を極力ゼロに抑えることを最優先に据える思想に変化はないと見るべきでしょう。

 そんな現状下で模範的なパフォーマンスを見せたのが、3月にロックダウンを実質10日以内で解除した広東省深セン市で、成功モデルと言えるでしょう。

 足元で猛威を振るっているのは、感染力が強く重症化リスクは低いオミクロン株という点を踏まえると、中国、および世界経済への影響は、感染拡大そのものよりも、ロックダウンのほうが深刻とみるべきです。

 この点を理解した上で、一定の感染者数がダラダラと続く「新常態」を習近平(シー・ジンピン)体制全体として容認できるかどうか、そのためのメッセージを習近平総書記自身がどう発信していくかが鍵を握るでしょう。