新興国への投資は、「インデックス」を参考に

 本連載ではこれまでも度々、分散投資の重要性について取り上げてきました。分散投資には、資産分散、時間分散、地域分散と、いくつかの方法がありますが、今回は「地域分散」に焦点を当ててみます。

 さて、「地域分散」と聞くと、新興国への投資をイメージされる方が多いと思われます。新興国投資の魅力といえば、先進国と比べて高い経済成長期待と株価の上昇余地ですが、一方で、金融・経済システムや社会インフラなど国として未成熟な側面もあり、時として株式市場や為替相場の混乱を引き起こします。

 新興国への投資を検討する際は、まず代表的なインデックス(指数)を参考にすることをお勧めします。インデックスとは、特定の市場全体の値動きを計算して数値化したものです。指数に連動する投資成果を目指す投資信託を、「インデックス型投資信託」といいます。

 一般的にこの指数は、公的な機関ではなく、指数算出会社という民間企業が組成・算出しています。指数算出会社は、社会経済情勢などを考慮しながら、各社が定めた基準にのっとって、定期的に指数の算出対象となる地域を入れ替えたり、指数の算出方法そのものを見直したりします。

 実際に、この度のロシア・ウクライナ問題を受け、世界の主要な指数算出会社は、それぞれの会社が提供する指数からロシアを除外しました。より具体的には、ロシアを「新興国」の枠組みから外したのです。

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「新興国」にはどの国が含まれる?

「新興国から外す」とはどういうことでしょうか。ここからは、世界的な指数算出会社である、米国のモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(以下MSCI)社の市場区分を使って解説します。

 MSCIでは、以下の図の通り、指数算出の基準となる市場区分を設けています。

【MSCIによる市場区分】

※ご参考
「MSCI エマージング・マーケット指数」構成24カ国
【南北アメリカ】ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー
【欧州、中東・アフリカ】チェコ共和国、エジプト、ギリシャ、ハンガリー、クウェート、ポーランド、カタール、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、アラブ首長国連邦
【アジア】中国、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、台湾、タイ

 つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で人気の「全世界株式」インデックス型投資信託の多くは、左上の「MSCI オール・カントリー・ワールド指数(ACWI=アクウィー)」をベンチマークに掲げています。同指数は先進国と新興国の双方を広範囲にカバーしていますが、この「新興国」に含まれるのは「MSCI エマージング・マーケット指数」の構成国24カ国です。

 MSCI社ではさらに、「MSCI エマージング・マーケット指数」に採用されていない新興国のうち、成長の伸びしろがあり、かつ外国人投資家が投資可能な国々を「フロンティア・マーケット」と位置付けています。

 足元で「フロンティア」に位置付けられる国は21あり、市場規模・流動性と市場へのアクセス面において一定の基準を満たすことで「エマージング」への昇格が認められます。

「ロシアを主要指数から除外」の意味

 今回、ロシアは「エマージング」から、「フロンティア」よりもさらに下に位置する、「スタンドアローン」への二段階降格を余儀なくされました。「スタンドアローン」とは、資本移動に規制があり、流動性も極めて低い、いわば「孤立した」市場を指します。

 少々乱暴な表現にはなりますが、「投資に値しない」市場と言ってもよいでしょう。ロシアは、経済制裁により金融市場が事実上の機能不全状態にあるため、指数算出会社としてもこうした対応を取らざるを得なかったのです。

 今後、金融市場が正常化すれば、再び「エマージング」へと昇格する可能性はありますが、ロシアという国に対する世界の見方が大きく変わった今、昇格へのハードルは高いとみられます。

 実は、指数算出会社各社は、3月に正式に除外を決定する前から段階的にロシアの組み入れ比率を引き下げていました。したがって、ロシアが除外されたことによってインデックス型投資信託が受ける直接的な影響はさほど大きくないと思われます。

 以上見てきたように、指数算出会社は、投資に際してのリスクを総合的に判断してインデックスを構成しています。リスクの高い新興国への投資を検討する際は、単なる株価の成長期待や足元の状況だけでなく、目に見えにくいリスクも考慮すべきということを覚えておきましょう。