「二世代運用」実践のポイント

 さて、「二世代運用」を実践する上で何が要点であり大切なのだろうか。10個の原則にまとめてみた。

【「二世代運用」の10原則】

1. 親子が互いに金融資産の保有状況を把握すること
2. 親子の金融資産を合算した上でアセットアロケーションを考えること
3. 税制上有利な運用口座を最大限有効に使うこと
4. 運用商品の選択はシンプルにすること
5. 親の生活費はインカムゲインに頼らず、資産を計画的に取り崩すこと
6. 親子の(特に親の)金融機関との取引関係を整理すること
7. 親の認知症対策を予め行っておくこと
8. 親の最晩年の過ごし方について関係者が合意しておくこと
8. 相続の方針について関係者で合意しておくこと
10. 運用の結果を巡って喧嘩しないこと

 ざっと眺めてみて、現実の親子が全ての条件を満たすことは、簡単ではない場合が多いのではないかと思う。例えば、親子が金融資産の中身を見せ合うことも、相続に関して関係者が予め合意することも個々の事情によっては簡単でない。読者は、先ずは気楽に上記の10原則を「理想論」だと思って読んでみよう。

 次に、現実との差について自問してみて欲しい。実は、どの項目も現実的なメリットが大きいことに気づくはずだ。

 先ずは、親子がお互いの金融資産に関する情報を共有して、子供は、親の金融資産運用のリスクとリターン両方の影響を受け、結果を引き継ぐのだということについて親子が納得することが肝心だ(1)。

 運用に関する技術的側面としては、2、3、4、5が重要だ。親子の利害とポートフォリオを合算して、「合計」についてどのような状態が最適かを考えるのだ。複数の金融口座で運用が行われていて、その「合計」を最適化しつつ、個々の金融口座に最適な運用資産を割り振るのが基本的な考え方だ。企業年金や公的年金などでいう「マネージャー・ストラクチャー」の問題に対する考え方を親子の運用に当てはめるといい。

 難しそうな印象を持つかも知れないが、実は、そうでもない。(1)親子の合算ポートフォリオでどれだけリスクを取るかを決めて、(2)iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)、つみたてNISAなどの税制上有利な運用口座をなるべく大きく活用して、(3)リスク資産(=期待リターンが高いので節税できる口座で運用する方が得)を優先的に有利な口座に割り振ると、ほぼ最適な状態を実現できる。

 運用商品については、リスク資産は、全世界の株式に投資するインデックス・ファンドでいい。どうしてもリスクを取りたくない金額があれば、個人向け国債変動金利型10年満期が「無難」だ(常にベストではないかも知れないが、当面相対的に上位に位置していて無難でありうる)。

 もう一点肝心なことは、投資信託の分配金や株式の配当などのインカムゲインで親の生活費を賄おうとしないことだ。運用の効率は、多分配型の投資信託よりも手数料の安いインデックス・ファンドの方が明らかにいい。また、高配当な個別株で効率的なポートフォリオを組むことは、不可能だとは言わないが、一般投資家には簡単ではない(趣味として本格的に取り組む必要がある)。インデックス・ファンドで運用して、定期的に(例えば年に一度)、計画的に資産を取り崩すのがいい。

 時々にあってこれら以上に優れている運用商品や商品の組み合わせがあるかも知れないが、あっても優劣は「微差」だ。金融マンのセールスに付き合ったり、運用について時間を掛けて複雑に考えたりするよりも、シンプルに割り切る方が間違いが少ない。特に、高齢の親に運用内容を理解して貰うためには運用を複雑にしない方がいい。親も子も、運用のあれこれに悩むよりも、人生の充実に注力する方が生産的だ。

 尚、対面営業の証券会社でなければ取引したくない事情がある親には、全世界株式のインデックスに対して連動を目指すETFでの運用をお勧めする。対面営業の窓口では、運用管理費用が十分低廉な(年率0.2%程度以下)インデックス・ファンドの取り扱いがない場合が多い。

 6、7の詳細については、前掲の拙稿を参照されたい。例えば認知症対策では、「財産管理等委任契約」、「任意後見契約」などがポイントになる。

 親の最晩年の過ごし方や、相続をどうするかについては、親の判断力がしっかりしているうちに関係者で合意しておくことが望ましい。これらの点そのものは、直接的に資産運用ではないが資産運用に(例えばリスク資産の投資に)影響するファクターだ。

 8、9、10の重要性については、改めて言うまでもないだろう。

 読者が、親子仲良く、金融資産を合理的に運用しつつ、親子共に充実した人生を過ごされることを筆者は強く希望している。