数回前の本連載で、「親のお金」を守ることの重要性について書いた(「親のお金を守れ!」)。その文章の文末で「二世代運用」という言葉を思いついた。あらためて「二世代運用」について考えてみたい。

「二世代運用」とは、親世代と子世代が協力して主に親の資産の運用を行うことだ。あれこれ考えてみると、そもそも親子二世代のポートフォリオを合体させて考えることの合理的が分かって来る。

「親のお金」活用の重要性

「親のお金を守れ」でも書いたように、少なからぬ勤労者家計で子供よりも親の方が大きな金融資産を持っている。その運用の成否は子供の金融資産の運用よりも影響が大きく、しばしば子供自身の利害にとって、自分の資産運用よりも重要だ。読者が仮に現在働いている世代だとして、親のお金に関心を持つことの重要性は何度でも強調したい。

 さて、子供の経済的損得の観点で考えてみよう。

 親の金融資産は、その多くを親の残りの人生で取り崩すとしても、一部は残って子供等に相続されることが多いだろう。相続までの時点で親のお金が効率的に運用されていることは子供にとって重要だ。

 また、プラスの財産が相続されないことが想定される場合にあっても、親の老後の費用を親自身の財産でどの程度賄うことが出来るかは重要だし、晩年の親の生活費を子供が負担しなければならないケースにあっても、親の資産運用が上手く行く方が子供の負担は小さく済む。

 親子は経済的に今後一切関わらないとでも決めた親子関係でもない限り、親の資産運用は子供にとって重要な問題だし、場合によっては、親にとって子供の資産運用の成否が重要になることもある。

一人単位のファイナンシャル・プランニングの非効率

 しかし、親子の資産運用の利害が強く結びついている現実に対して、親子二世代での合理性を追求したファイナンシャル・プランニングや運用アドバイスの話を聞く機会は少ない。

 ファイナンシャル・プランニングは「一人(ないし一夫婦)のライフサイクル」を前提に考えられていることが多い。リタイアメントまで、貯蓄と投資を組み合わせて資産を作り、リタイア後は年金と資産の取り崩しを組み合わせて老後の生活をファイナンスして、最後に相続が発生する。こうした流れ自体はその通りなのだが、子供世代との経済的な関係が十分考慮されていないことが物足りない。

 親の「家計管理」、「資産運用」、「相続対策」が別個に考えられていて、資産運用は子供世代の状況と関係なく独立して考えられることが少なくない。

 例えば、確定拠出年金でよくある商品の「ライフサイクル・ファンド」や「ターゲットイヤー・ファンド」では、年齢が進むほどに債券や現金などリスクの小さな資産の比率を高めるものが多い。

 しかし、親自体が、老後の生活費に対して十分な資産を持っていれば、そもそも老後は使うお金の予想額も小さくなるのだから、運用のリスクは必ずしも小さくする必要はない。

 加えて、子供はこれから何十年か分の稼ぎを背景とした大きな人的資本を持っており、子供の将来の生活費(理論的には将来の負債の現在価値につながる)も伸縮的なので、親子の家計を合体すると、親の資産運用は親が高齢だからといって必ずしもリスクを縮小する必要はない。親の最晩年の数年間に十分なリスクを取った運用を行わないことが機会損失になるケースが多いのではないか。

 一般に、高齢者に対する資産運用のアドバイスとしては、(1)リスク資産の比率を低下させること、(2)インカムゲインを生活費に充てること、が推奨される場合が多いが、親子二世代を合体した経済合理性をもとに考えると、(1)は不必要あるいは非効率的である場合が多く、(2)に至っては金融機関の高齢者顧客向けのマーケティング戦略に引っ掛かって非効率的な運用商品の購入に向かう原因になりかねない(例えば、公的年金の支払いのない「奇数月」に分配金を出す投資信託は、ほぼ全てが、避けた方がいい商品だと筆者は思う)。

 親は、相続を通じて子供の経済的状況を良くしてやりたいと思うだろうし、逆に経済面も含めて子供の世話になる可能性もある。どちらも自然だ。

 こうした現実があるにもかかわらず、資産運用を含むファイナンシャル・プランニングでは、専ら「一人(又は一夫婦)の一生」を前提に考えられているように見える。

 親子が資産運用で取るべきリスクは個々のケースによって様々だろうが、親の晩年・最晩年にリスク資産の運用が小さくなりがちであることと、相続が現金でなされて、この資産がリスク資産に投資されにくいことは、親子としても、加えて言うなら社会としても、大きな無駄になっているように思う。

 以上が「二世代運用」を強くお勧めしたい背景だ。

「二世代運用」実践のポイント

 さて、「二世代運用」を実践する上で何が要点であり大切なのだろうか。10個の原則にまとめてみた。

【「二世代運用」の10原則】

1. 親子が互いに金融資産の保有状況を把握すること
2. 親子の金融資産を合算した上でアセットアロケーションを考えること
3. 税制上有利な運用口座を最大限有効に使うこと
4. 運用商品の選択はシンプルにすること
5. 親の生活費はインカムゲインに頼らず、資産を計画的に取り崩すこと
6. 親子の(特に親の)金融機関との取引関係を整理すること
7. 親の認知症対策を予め行っておくこと
8. 親の最晩年の過ごし方について関係者が合意しておくこと
8. 相続の方針について関係者で合意しておくこと
10. 運用の結果を巡って喧嘩しないこと

 ざっと眺めてみて、現実の親子が全ての条件を満たすことは、簡単ではない場合が多いのではないかと思う。例えば、親子が金融資産の中身を見せ合うことも、相続に関して関係者が予め合意することも個々の事情によっては簡単でない。読者は、先ずは気楽に上記の10原則を「理想論」だと思って読んでみよう。

 次に、現実との差について自問してみて欲しい。実は、どの項目も現実的なメリットが大きいことに気づくはずだ。

 先ずは、親子がお互いの金融資産に関する情報を共有して、子供は、親の金融資産運用のリスクとリターン両方の影響を受け、結果を引き継ぐのだということについて親子が納得することが肝心だ(1)。

 運用に関する技術的側面としては、2、3、4、5が重要だ。親子の利害とポートフォリオを合算して、「合計」についてどのような状態が最適かを考えるのだ。複数の金融口座で運用が行われていて、その「合計」を最適化しつつ、個々の金融口座に最適な運用資産を割り振るのが基本的な考え方だ。企業年金や公的年金などでいう「マネージャー・ストラクチャー」の問題に対する考え方を親子の運用に当てはめるといい。

 難しそうな印象を持つかも知れないが、実は、そうでもない。(1)親子の合算ポートフォリオでどれだけリスクを取るかを決めて、(2)iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)、つみたてNISAなどの税制上有利な運用口座をなるべく大きく活用して、(3)リスク資産(=期待リターンが高いので節税できる口座で運用する方が得)を優先的に有利な口座に割り振ると、ほぼ最適な状態を実現できる。

 運用商品については、リスク資産は、全世界の株式に投資するインデックス・ファンドでいい。どうしてもリスクを取りたくない金額があれば、個人向け国債変動金利型10年満期が「無難」だ(常にベストではないかも知れないが、当面相対的に上位に位置していて無難でありうる)。

 もう一点肝心なことは、投資信託の分配金や株式の配当などのインカムゲインで親の生活費を賄おうとしないことだ。運用の効率は、多分配型の投資信託よりも手数料の安いインデックス・ファンドの方が明らかにいい。また、高配当な個別株で効率的なポートフォリオを組むことは、不可能だとは言わないが、一般投資家には簡単ではない(趣味として本格的に取り組む必要がある)。インデックス・ファンドで運用して、定期的に(例えば年に一度)、計画的に資産を取り崩すのがいい。

 時々にあってこれら以上に優れている運用商品や商品の組み合わせがあるかも知れないが、あっても優劣は「微差」だ。金融マンのセールスに付き合ったり、運用について時間を掛けて複雑に考えたりするよりも、シンプルに割り切る方が間違いが少ない。特に、高齢の親に運用内容を理解して貰うためには運用を複雑にしない方がいい。親も子も、運用のあれこれに悩むよりも、人生の充実に注力する方が生産的だ。

 尚、対面営業の証券会社でなければ取引したくない事情がある親には、全世界株式のインデックスに対して連動を目指すETFでの運用をお勧めする。対面営業の窓口では、運用管理費用が十分低廉な(年率0.2%程度以下)インデックス・ファンドの取り扱いがない場合が多い。

 6、7の詳細については、前掲の拙稿を参照されたい。例えば認知症対策では、「財産管理等委任契約」、「任意後見契約」などがポイントになる。

 親の最晩年の過ごし方や、相続をどうするかについては、親の判断力がしっかりしているうちに関係者で合意しておくことが望ましい。これらの点そのものは、直接的に資産運用ではないが資産運用に(例えばリスク資産の投資に)影響するファクターだ。

 8、9、10の重要性については、改めて言うまでもないだろう。

 読者が、親子仲良く、金融資産を合理的に運用しつつ、親子共に充実した人生を過ごされることを筆者は強く希望している。