習近平はダボス準備会合で何を語ったか

 国家統計局が2021年の経済成長率を発表したのと同日、習氏が世界経済フォーラムによるオンライン形式の準備会議「ダボス・アジェンダ」で、会議初日、プログラムのトップバッターとして基調講演を行いました。

 中国という国はこのような順番や出方を極めて重視します。メンツという要素もありますが、それ以上に、世界の首脳らが集まり、世界経済や国際政治の行方に実質的な影響力を与える舞台で、中国が話題の中心にいる、世界で最も影響力のある国家である、といった印象を与える目的があります。ちなみに、各国の首脳としては、インドのモディ首相、日本の岸田文雄首相、インドネシアのウィドド大統領、オーストラリアのモリソン首相らが、習氏に続き残りの4日間で登壇することとなっています。

 習主席の講演の中で、私が着目した箇所が三つあります。発言を引用し、それぞれ分析していきます。

世界の産業チェーン、サプライチェーンは混乱し、コモディティ価格は持続的に高騰し、エネルギー供給も緊張するなどリスクが交錯している。経済回復の不確実性を強めている。世界デフレ環境には明らかな変化が生じ、複合型のインフレリスクが顕在化している。仮に主要経済国の金融政策が“アクセルを急いで踏む”、“急カーブする”とすれば、それらはマイナスの波及効果をもたらし、世界経済と金融の安定に課題を投げかけるに違いない。広範な途上国は率先してその打撃を受けることになる

 現状認識として、リスク要因を懸念している習氏の心境がみてとれます。サプライチェーン(供給網)という意味では中国のゼロコロナ策は懸念材料ですし、資源高、電力供給不足なども問題視されています。「アクセル」、「急カーブ」の部分は面白い表現ですが、特に米国の金融引き締めを懸念していることが分かります。中国として、米FRB(連邦準備制度理事会)に対し「利上げには慎重に慎重を期すように。拙速に進めれば、被害を受けるのは私たちだ」と警告しているのです。

中国経済は全体的に良好な勢いを保っている。昨年、中国GDP成長率は8%前後で、比較的高い成長と比較的低いインフレという二重の目標を達成した。国内外の経済環境変化がもたらした巨大な圧力を受けたが、中国経済は強靭(きょうじん)で、潜在力に富み、長期的に好転していくというファンダメンタルズは変わっていない。我々は中国経済成長の前途に自信を持っている

「二重の目標」というのは興味深い表現です。高めの成長率と低めのインフレ率という2点が、経済の安定に不可欠という認識を習主席がもっている現実がみてとれます。一方、上記の「三重圧力」にもみられるように、習主席がダボスの舞台で「巨大な圧力」という表現を使った事実は重いです。2022年という政治の季節、経済成長は並大抵の努力では達成されないという危機感を持っているのでしょう。

中国は統一的に開放し、秩序ある競争から成る市場体系を建設していく。全ての企業が法律の前での平等、市場の前で機会均等であることを確保する。中国はあらゆる資本が中国で合法的、ルールに則って経営し、中国の発展に前向きな役割を担うことを歓迎する。中国は引き続き高水準の対外開放を拡大していく。ルール、管理、標準などを重んじる制度型開放を徐々に開拓していく。外資系企業の国民待遇を実践していく

 2022年における一連の規制強化や、米中対立などを受けて、中国のビジネス・投資環境に懸念を強める外国企業、外国人投資家を強く意識した発言であることは明白です。中国の市場において、中国企業と外国企業が平等に扱われること、中国は引き続き外資を必要としていることを訴えています。

 また、「制度型開放」という、グローバルスタンダードでいえば当たり前のものを「徐々に開拓」と表現しているのは特筆に値します。習氏として、現状は「制度的開放」から程遠いと認識していることの裏返し、言い換えれば、今後より外国企業に受け入れられるような制度的環境を整備していく用意があると宣言しているということです。

 正直、私は安心しました。常に自信満々に言動を取っているように見える習氏が、中国市場をめぐる制度的環境はまだまだ未熟であり、そこに外国企業、外国人投資家がさまざまな不満や懸念を抱いてきた経緯を軽視していない、という内情を理解できたからです。