投資小説:もう投資なんてしない⇒

第5章 分散投資は、個人投資家を堕落させるか、成功させるか

<第2話>投資になると、リスクからリターンを考えられない

 何に投資をするべきか自分であれこれ選ぶより、株価指数などのインデックス、市場平均を買ったほうが長期的には成績がよさそうだ、というのが隆一の学んだこと。先生は、それを踏まえて話を続けた。

「投資先を考えるときのポイントは、市場平均を持っていればいいということ。そして、もう1つ重要なポイントがあります。それは、リスクから考えるということです」
「どういうことですか」
「ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンの意味はわかりますか」
「先生、TOEIC400点台ですけど、それぐらい分かります。リスクを取ればリターンがあり、リスクを取らなければリターンはないということですよね」

会社を辞めて起業するリスクとリターン。投資に置き換えると?

「その通りです。では、もしあなたが友達に『いっしょに起業をしないか』と誘われたとしたらどうしますか」
「家族もいますし、起業しても10年持つ会社はほとんどないと言われるので、簡単には乗れませんね。ただ、うまくいったときにかなり稼げるという見込みがあるなら、考えますけどね」
「そう、それはつまり、あなたは今の会社を辞めて起業をするというリスクを取るのであれば、そのリスクに見合ったリターンがないと納得できないということを言っているのです」

 隆一が<そりゃそうだろ>と思っていたところに、「何を当然のことを言っているのだと思っていませんか」と先生が言うので、隆一はやれやれと目を伏せた。

「いや、この当然のことを、投資になると、できていない人が多いのです。多くの人がリターンのことしか考えていません。たとえば、最近業績のいい個別株があり、それを買えば10倍になるかもしれないと思って買ったりします。でも、そこが高値だった。そして、その後ずっと低迷したとしても、塩漬けにしてしまい、それもしょうがないと諦めてしまうのです」