期待と期待と期待がバブルを作る

「セリの話から始めたのは、株式、外国為替、不動産、あるいは仮想通貨といった投資商品は、マグロよりも、もっと価格が大きく変動するということを伝えたかったからです。」

「えっ、もっと大きな変動ですか?」

 隆一の食いつきを見て、先生のコーヒーカップを握る力も強くなった。

「投資の場合、今すぐに消費したり利用したりするわけではないけど、将来、値上がりするかも、という<期待>から生まれる需要が加わるからです。こうした需要を<期待需要>と呼びましょう」

「期待需要か。覚えることが多いな」という隆一のぼやきを無視して先生は続けた。

「株式投資を例にとると、創立して間もなく、いまだ利益を生んでいない会社や、あるいは足下の業績は赤字の会社でも、将来性がありそうと人気が出れば、多くの人に『値上がりするかも』という期待が生まれ、買う人が増えて、実際に値上がりする場合があります。アメリカでネットバブルが起きたときは、名前にドットコムを付けるだけで投資家が殺到し株価が急騰しました。逆に、業績順調な会社でも、何かの理由で失望され、将来への期待が萎めば、売られて株価が暴落する場合もあります。」

「えぇ。それじゃあ、良し悪しの基準がわかりません。何を信じて買えばいいのか」

「それが、相場の難しさでもあり、醍醐味でもあります。そこで、投資家の期待や失望がどのように生まれてくるのか、を理解することが重要になります。」

「期待と失望の生まれ方ですか。そんなものにもメカニズムがあるんですね」 

「ここで、バブルの話に戻るのですが、言葉の説明からすると、バブルとは『bubble』、つまり泡の意味です。そして、財やサービスの生産・販売や設備投資などの実体経済による需要や供給に関わりなく、価格が暴騰することをバブルと呼んでいます」

 どうやら先生はこのあたりの細かい話が好きそうで、話が長くなりそうだと思った隆一は、なんとか自分で結論を作って、ショートカットを試みてみた。

「さっき、期待需要とおっしゃいましたよね。それが、バブルなのですね」

「似てはいますが、少し違います。バブルは、期待需要そのものから生まれるというより、それを背景として、売りや買いを仕掛けて儲けようという人々の思惑、つまり投機の対象となるが故の価格変動が加わって膨らんでいきます」