コメント2:好決算は織り込み済みだった?

【いただいたご意見】

 好決算発表されていたのに2時に決算発表されたら株価がドンと下がったって、要するに織り込み済みだったのかサプライズなし(織り込み通りだった)っていうだけでしょ。
 配当だけでいえば、純利益が倍増近いのに若干の増加でむしろガッカリ。配当、250円くらいに増配していたら株価もあがったと思う。

 的確なご指摘です。確かに、三菱商事の好決算は織り込み済みでした。

 石炭や鉄鉱石、天然ガス、原油、銅などの急騰によって、三菱商事が今期企業業績を大幅に上方修正する予想は、事前にアナリストレポートなどで出回っていました(私もそういうレポートを出していました)。

 決算が発表になり、企業業績(会社予想)が上方修正された時、それがサプライズ(驚き)なのか、織り込み済みなのか見る方法があります。コンセンサス予想と比較することです。

 コンセンサス予想とは、証券会社のアナリストなどが出している業績予想の平均値のことです。QUICKやIFISなどが計算して出しています。

 三菱商事は11月5日、2022年3月期の純利益予想を3,800億円から7,400億円に修正しました。それに対し、5日時点の同社純利益のQUICKコンセンサス予想は7,266億円でした。つまり上方修正しても、それ自体にサプライズは無かったということです。

 純利益予想が、従来予想比、倍増近いのに配当を少ししか増やさなかったのがガッカリ、1株当たり配当金を250円くらいに増配していたら株価も上がったと思うというご指摘も、その通りと思います。

 三菱商事は、1株当たり配当金を134円から142円に増やしました。増配といっても、ほんの少しです。配当利回りは4%までしか上がりませんでした。

 1株当たり配当金を250円まで増やしていれば、配当利回りが7%を超えますので、株価は大きく上がったでしょう。今期の1株当たり利益(連結ベース)を501円まで引き上げたので、連結配当性向を50%まで引き上げれば、250円の配当はできないことはありません。

 ただし、私はアナリストとして、配当よりも自社株買いをした方が、会社のためにも投資家のためにもプラスと考えています。

 三菱商事は日本の投資家が配当を重視するので配当をたくさん出していますが、本当は配当をしないで代わりに配当原資をすべて使って自社株買いした方が、会社のためにも投資家のためにも良いと思います。

 なぜならば、配当利回り4%の会社が、配当をゼロにして、配当に使うキャッシュをすべて自社株買いに振り向ければ、理論上、株価が4%上昇するからです。詳しくは、私の以下のレポートをご覧ください。

 2021年4月6日:「自社株買い」で株価が上がるホントの理由をやさしく解説

 結論だけ、かいつまんでご説明します。配当利回り4%の会社が配当しないで、その資金をすべて使って発行済み株式総数の4%に当たる自社株買いをやるとします。そうすると、発行済み株式総数が4%減ります。

 すると、1株当たり利益が4%増えます。その分、PERが低下します。元と同じPERで評価されるならば、株価は4%上昇します。なんだかよくわからなかった方は、私の4月6日のレポートをお読みください。

 配当を4%もらってしまうと、それにすぐに税金をかけられてしまいます(NISA[少額投資非課税制度]など非課税口座で投資している場合は課税されません)。一方、配当しないで自社株買いした結果、株価が4%上昇しても、売らない限り税金はかかりません。

 いつ売って、売却益に課税されるか、投資家が選択できます。そういう意味で、配当よりも自社株買いの方が実は投資家にとってありがたいのです。

 米国企業はそれがわかっているから、大手ハイテク企業などでは、配当よりも自社株買いで株主に利益還元するのが普通となっています。無配で自社株買いだけやる企業もたくさんあります。

 自社株買いは、投資家だけでなく、三菱商事自身にもメリットがあります。増配すると、配当負担が恒常的に増加します。

 配当金は、税引後利益から払わなければならないので、きわめて重い負担となります。しかも、三菱商事の場合、高収益をあげているのが海外子会社に多いので、子会社から親会社へ配当金を取り寄せなければならない負担もあります。

 一方、自社株買いをすれば、発行済み株式数が減りますので、その分恒常的に配当負担が減ります。配当負担が減って1株当たり利益が増えれば、その見合いで増配すれば配当総額を増やさないで増配する余地が高まります。

 投資家にとっても、三菱商事にとっても、増配よりも自社株買いの方がウィンウィンの関係でメリットがあることが明らかです。

 今ここに書いていることは、三菱商事には、すべてわかっていることです。ただ、日本の投資家が配当を重視するので、それに合わせて配当を重視しているのだと思います。

 今回の増配が小さかったのは、確かに、高収益が長期化するか見極めたいという同社の慎重さが表れている面もあると思います。ただし、それだけではないと思います。自社株買いと増配のバランスを取っていく必要があることも考慮に入っていると予想しています。

 三菱商事が今後自社株買いを行うか否か、まったく私にはわかりませんが、今回の増配が小さかったことを、単純にがっかりする必要はないと考えています。