世界で初めて個人投資家向けにインデックスファンドを提供し、ヴァンガード・グループの創業者でもあった故ジョン・ボーグル氏の投資に対する考え方には賛同者・共感者が世界中に多数存在していて、氏の投資哲学を広く普及することを活動趣旨とする「Bogleheads ®(ボーグルヘッズ)」という非営利団体が存在し、各国・各地に支部がある。このほど、日本にも支部が創設された(代表・金野真弓氏。本記事末尾の注をご参照下さい)。

 ボーグルヘッズには、米国以外の投資家に向けた投資哲学をまとめた文書があり、生前のボーグル氏の投資哲学が、ボーグルヘッズによって10個の原則にまとめられている。これらの原則は、日本の投資家にとっても、大いに「考える価値のある」ものだ(考えずに「盲信」することは、ボーグル氏も望まないにちがいない)。本稿では、ボーグルヘッズの非米国投資家向けの10の原則をご紹介して、検討を加えてみたい。

(以下、各テーマの日本語訳は金野真弓氏、英文はボーグルヘッズのホームページ、各テーマの内容に関する紹介は筆者によることをお断りしておく)

10の原則を一覧する

 先ず、ボーグルヘッズの10の原則を、まとめて一覧してみよう。

【ボーグルヘッズの10の原則(非米国投資家向け)】

  1. 実行可能な計画を立てる
    (Develop a workable plan)
  2. 早くから、かつ定期的に投資する仕組みをつくる
    (Invest early and often)
  3. リスクの取り過ぎや、リスクを取らないことに注意
    (Never bear too much or too little risk)
  4. 分散
    (Diversify)
  5. マーケットタイミングを採らない
    (Never try to time the market)
  6. インデックスファンドを活用する
    (Use index funds when possible)
  7. コストを低く抑える
    (Keep costs low)
  8. 税金を抑える
    (Minimise taxes)
  9. シンプルな投資
    (Invest with simplicity)
  10. 航路を守る
    (Stay the course)

 いかがだろうか。一読して、シンプルで迷いのない、爽やかな投資家像が目に浮かばないだろうか。

 もっとも、自分の投資方針が正しいと思っていても、マーケットの変動にどきどきするのが投資家心理の現実ではある。

 さて、個々の項目を検討してみよう。

1.    実行可能な計画を立てる

 10の原則は、先ず、現実的な予算の下で、健全な家計の生活スタイルを確立することが大事だと述べている。各種の生活の必要経費や、引退後の生活資金などを十分検討した経済的なライフ・プランニングが重要だと指摘している。

 文中に、計画は、「完璧である必要は無いが、合理的である必要がある」と述べている箇所はなかなか奥深い。計画に仮定はつきものだし、人生の事情は変化するし、新しいことを思いつくこともあるので、必要な都度「合理的に」計画を変更するべきだということだ。

 ボーグルヘッズが特に注意を喚起しているのは、「悪い負債を避けること」(キャッシングによる借金など、高利の債務を避けよと言っている)と「快適な老後のために毎月の収入から多くの割合を貯蓄や投資に回すことの必要性を理解すること」だ。何れにも異論はない。

 高利の借金は、その返済を「運用」として考えると「無リスクで高利の利回りが得られる逃せない運用チャンスだ」が、それは借金をしている状態が著しく損で非合理的であることを意味する。

 借金は、一般論として、(1)借り入れコスト以上の利益機会がある、(2)自分にとって過大なリスクではない、(3)金利水準がリーズナブルである(市場金利から大きく離れていない)、の3条件を満たす場合に「検討してもいい借金」になるが、高金利の借金は(3)の条件から外れるので「無条件にダメ」と考えておくくらいで良いだろう。

 老後に備えていくらくらい貯めるべきかは、計算の具体的な方法を伝えたいテーマだが、ボーグルヘッズは次の項目で「個人の投資目標、居住する国の年金制度、投資への課税制度」などによって異なるとしながらも、「収入の20%くらいを投資に回すのが出発点としていいのではないかと述べている。

 厚生年金に加入している日本の一般サラリーマンにとっても、概ねいい見当ではないだろうか。