2.    早くから、かつ定期的に投資する仕組みをつくる

 投資を早くから始めることと、給与からの自動引き落としによる投資を行うことを勧めている。「投資習慣を確立し、継続すること」が大事だとしている。

 1点、注釈を加えたい点があるが、大筋では賛成だ。現実的に優れた行動だろう。

 心配なのは、金融資産への投資額を大きくした場合に、自分自身の人的資本への投資が過小になる可能性だ。投資は期間が長いと資産を複利で増やすと期待できるので、早く始める方がいいのだが、年齢や機会によっては自分の教育や経験に投資する方が、将来の稼ぎの見込みを増やして人的資本の拡大に役立つ場合があり得る。

 お金を有効に使うことで、将来「より稼げる人」になる可能性があるし、将来、結果的に同じ程度の収入と資産額の人を較べると、過去により多くのお金を使ってきた人の方が、知識・経験が豊富で、他人からみて「面白い人」だったり(逆は「つまらない人」だ)、個人の経験としても満足度が高かったりする場合があるのではないか。

 もっとも、若い頃は自分に投資することが有効な場合があるとしても、自動引き落としで定期的に(普通は毎月)投資を行う仕組みは、早く作る方がいい。それは、投資が必要なのに、投資を始められていない人の実質的な理由として「億劫だから」があるからだ。

 例えば、入社2年目の若いサラリーマンに筆者がアドバイスするとしたら、以下のような感じだろうか。

「若い頃は自分への投資が大事だ。しかし、それを前提とした上でも、先ずネット証券に口座を開いて、ネット証券と連携できる銀行口座を作る。そして、億劫がらずに、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)とつみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の口座を作って、それぞれに毎月5千円でもいいから積立投資する『仕組み』をつくるところまで、やっておくといい。仕組みが出来ていれば、あとは将来必要な時に金額を増やすのは簡単だ」。

 話を理解して且つ行動に移すことが出来るビジネスマンは、若い頃の筆者よりも遙かに優秀で将来有望な人だと確信する。

3.    リスクの取り過ぎや、リスクを取らないことに注意

 リスクの取り過ぎだけではなく、リスクが小さすぎることに対しても注意を喚起するバランス感覚はボーグル氏及びボーグルヘッズの考え方の優れた点だ。

 適切なリスクの大きさの判断は難しいとしながらも、「次の下落相場で株式を売らなければならないような株式投資額」は過大なリスクだという視点を提供しているのは、なかなか興味深い。「売らずに堪えられる状況が予見できるなら、それは負担できるリスクだ」というのは一理ある判断基準だろう。

 一方、故ボーグル氏の見解として、「年齢が上がるにつれて債券の比率を増やすこと」の推奨が紹介されているが、この論点に関して、筆者は、個人の資産負債両方の状況を考えた場合にリスクに対する許容度が高齢になって必ずしも低下する訳ではないことを指摘したい。高齢であるということは、「今後これだけのお金はどうしても必要だ」という金額が縮小して且つ見通しやすくなっているということなので、合理的に考えると(特に相続人の利益も含めて考えると)、資産の全額を株式に振り向けていい高齢者も少なくあるまい。例えば、ウォーレン・バフェット氏が個人資産の運用で債券比率を高める必要があるとは思えない。日本人のお金持ちでも事情は同様の場合があるだろう。

 インデックスファンドを創始した合理的なボーグル氏でも、「高齢ならリスクを低下させるべし」、「高齢ならインカムゲインが必要だ」といった、運用・金融業界の過去の常識に影響されていたのかと思うと、「通念」というものの影響の大きさを感じる。

 もっとも、かつてのボーグル氏の見解にも、かつての債券の金利水準が昨今よりもずっと魅力的であったことなど、そう考えるのがもっともだという背景はある。

 現在の日本の高齢者は、相続人とも協力しながらインデックスファンドで普通に運用するといいし、リスクを取りたくない資金の置き場所としては、個人向け国債変動金利型10年満期や1人1行1,000万円以内の銀行預金を使うといい。