パラダイムシフト

(1)オーナーシップとしての株式投資

“株券ではなく、ビジネスを買うという投資姿勢が必要です”

 多くの人がバフェット氏の企業選択に注目し、それをまねしようとしますが、その前にまず知っておくべき姿勢は、この言葉に集約されています。

 すなわち、彼は企業の株式を、市場で売買されている「株券」ではなく、保有しようとする企業、ビジネスが生み出す富の持ち分、オーナーシップであると考えているということです。証券としての株式を買うのではなく、企業全体を買うという発想からスタートしているのです。

 このことは、「株式に投資する」という同じ行為ではあるものの、ラグビーとアメリカンフットボールほどに異なるものです。彼にとって、コカ・コーラ株を買うという行為は、“秘密のレシピによって守られた褐色の液体が、世界中で稼ぐ利益の持ち分に対する「オーナーになる」という行為”なのです。

 彼は、そのビジネスが将来にわたって利益を生み続けるほどの強さを維持できるのかどうかを考えることに集中し、株式市場で刻一刻とトレードされている株価など気にしません。「仮に株式を購入した翌日に市場が閉鎖され、その5年間取引が行われない事態になっても、私はいっこうに構いません」と言っているとおりです。

 そして、ビジネスの強さについて確信が持てる場合、むしろ株価は下がった方が有り難いとすら言い切ります。なぜなら、継続的に買い増ししようと考えているオーナーにとっては、株価が下落したほうが、同じ「価値」を持つものをより安い「価格」で買うことができるからです。

図表:長期投資と中短期投資の考え方

  長期投資(オーナーシップ) 中短期投資(マネーゲーム)
焦点 ・価値を見極める ・将来の価格を予想する
行動 ・「価格<価値」の時に買う
・保有して価値増大を楽しむ
・「現在の価格<将来の予想価格」の時に買う
・より高値で買ってくれる他人を見つけて売却する
判断材料  ・対象を保有することで得られるキャッシュフロー ・市場環境/マクロ予想
・需給予測
・カタリスト
ゲームの性質 ・プラスサム ・ゼロサムまたはマイナスサム
出所:農林中金バリューインベストメンツ作成

(2)資本主義に主体的に参加する

 しかし、この「オーナーになる」というマインドセットを持つことは、まさに「言うは易し、行うは難し」。なぜなら、世の中にはいつも、世界景気が拡大(減退)しそうだとか、次四半期の業績見通しだとか、はては米国大統領のツイッターなど、おびただしい量のニュースが氾濫しています。

 それらにより、買った企業の株価が中短期的に変動し、それに気が取られてしまいがちです。

 それに加え、日本では株式投資に対する社会的・心理的なアレルギーがあるように思います。株式投資をすることが、まるで危険な博打(ばくち)をするかのように思われています。

 バフェット氏が提唱するような「オーナーシップとしての株式投資」という考え方は、本質的には資本主義の根幹であるにもかかわらず、日本ではしっかりと教えられる機会もなく一般的ではありません。そればかりか、株式投資で儲(もう)けることは、何か胡散臭(うさんくさ)いことをしているかのように思われています。

 しかし、考えてください。近代最大の発明といわれる資本主義の仕組みへの参加方法は論理的に、1.資本家(オーナー)としてお金を投資するのか、2.労働者として働くのか、3.その両方(労働者として働きながら、投資も行う)、の3通りしかありません。資本主義の先進国である日本において、なぜこの資本家のマインドセットが根付いていないのでしょうか。

 一つには歴史的な背景があるのかもしれません。戦争で壊滅的な打撃を受けた70年前の日本人の大半は自らの労働力以外に売るものがなかったということなのかもしれません。しかし、高度成長を終え1,800兆円を超える金融資産を有するまでになった現代の日本人には、資本家として資本主義に参加するという権利が与えられているのです。

 つまり、アマゾンの株式に投資するということは、ジェフ・ベゾスという鬼才経営者がオーナーであるあなたの部下となって働いてくれるということであり、ディズニー株に投資すれば、ミッキーマウスがあなたのために世界中のディズニーランドで稼いでくれるということなのです。

 あなたはいつもどおり会社に出社し労働者として働きながら、少額の積立投資を行うことでこれらの素晴らしいビジネスのオーナーになれるのです。このパラダイムの転換は痛快じゃありませんか? この転換こそがバフェット氏に近づく第一歩なのです。