“能力の輪”に集中する
(1)バフェット氏の銘柄選択術
パラダイムの転換を終えたあと、次はどうすればよいのでしょうか?
バフェット氏の企業選択原則には、以下の基準があります。
1 ビジネスが理解可能であること
2 ビジネスの長期的な見通しが良いこと
3 経営陣が誠実かつ有能であること
4 魅力的な価格で買えること
このように書くと、「バフェット氏は投資の神様だからあらゆる企業のことを何でも知っていて、企業を選択できるのだろう」と思うかもしれません。
しかし実際には彼は「理解できないことには近づかない」というスタンスをとり、よく理解できる企業への厳選投資を行います。卵を複数の籠に分けるインデックス投資を「無知を保護する手段」と言い切り、彼自身は複数の卵を一つの籠に入れてしっかり見守る方式を採っているのです。
“最も重要なのは、自分の能力の輪(Circle of competence)をどれだけ大きくするかではなく、その輪の境界をどこまで厳密に決められるかです”
この言葉こそ彼の投資哲学、銘柄選択の中心になる考え方を表しています。
例えば、彼は後にITバブルといわれた1990年代後半に、自らの能力の輪の外にあるIT関連株に一切投資しませんでした。そのためにインデックスの上昇に大きく劣後し、世間では「バフェット流投資は終わった」とまで言われましたが、長期的にはITバブルが崩壊する中で彼の投資眼の正しさが証明されました。
また、彼は相場の予想はしません。なぜなら、それは彼にとって能力の輪の外にあることだからです。彼は「相場観を持ったり、他人の相場予想を聞いたりするのは“時間の無駄”」とまで言い切っています。このことは、投資とは相場の上下を予想することであると思っているプロの機関投資家を含むほとんどの投資家と一線を画しています。
バフェット氏は、自らの「能力の輪」の中で理解できる素晴らしい経済性を有する企業を特定し、よく理解しているビジネスのみを厳選して保有します。だからこそ、本来的に予想のできない相場に連動してその株価が暴落した時にも喜んで買い増すことができるのです。これは以下の言葉に集約されています。
“たとえグリーンスパン議長(当時のFRB[米連邦準備制度理事会]議長)が今後2年間の政府の金融政策を耳元で囁(ささや)いてくれても、私がすることに一切変わりはありません”
(2)あなたの「能力の輪」はどこまで?
余談になりますが、この「能力の輪」という概念は、私たちが普段の生活において幸福を追求する上でもとても参考になる概念だと思います。
バフェット氏は一日の大部分を読書、年次報告書を読み込むことに費やし、プライベートでは携帯電話もガラケーで、メールすらしないと言われています(趣味のブリッジをして遊ぶ時間を確保するため)。
私たちは普段、天気のような自然現象から芸能人のゴシップまで、さまざまなことに関心を持ちます。また個人生活の中では、他人が自分をどう思うかとか、自分の過去がどうだったとか、いろいろなことで悩みます。でもよく考えてみると、それらは実は大半が自分の「能力の輪」の外であることが多いことに気が付きます。
これらの関心事に気を取られようと取られまいと自分の現在と将来の幸福には何ら影響がないのだとすれば、私たちはもっと自分の「能力の輪」にこそ集中しないと駄目なのではないでしょうか。バフェット氏の生き方、言葉からは投資のみならず、人生や幸福についても考えさせられます。
著者:奥野一成(おくの かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社常務取締役CIO
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