今日の為替トレッキング

今日の一言

流れが悪いと思い込んで、気持ちが沈んだり、事態を打開しようとしたりして無理をすると、ますます敗色が濃くなる

Sailing

 FRB(米連邦準備制度理事会)は、かなり意図的に、しかしとても賢明に、来るべき緩和縮小の開始に向けて、マーケットを誘導しようとしています。

 FRBの金融政策の指導者的存在であるクラリダFRB副議長は、「インフレ見通しのリスクは上向き」で、「雇用市場は、2022年末までに最大雇用に達する」と、かなり強気の見解を示しました。FRBの金融政策のデュアルマンデート(2つの法的使命)は「物価の安定」と「完全雇用」ですが、クラリダ副議長の予測では、両方とも2022年中に達成することになります。

 それは同時に、FRBの量的緩和政策が2022年で終了するという意味になります。緩和縮小の次の段階は利上げ。「マーケットは利上げに備えて準備を始めるように」というのがクラリダ副議長からのメッセージです。たった1年半前には、FRBの金利がコロナ前に戻るのは40年後という予想がまかり通っていたことを考えると、「2023年利上げ」のサプライズは非常に大きかった。

 なぜクラリダ副議長は、量的緩和政策をできるだけ早く終わらせたいのか?それはコロナ対策で大きく膨らんでしまったFRBのバランスシートを安定した状態に戻すためです。次の金融危機に備えて、FRBの政策余地を増やしておく必要があると考えているのかもしれません。

 現在のFRBの量的緩和政策による債券購入額は毎月1,200億ドル。2022年1月から緩和縮小を開始するとして、毎回のFOMC会合で債券購入額を150億ドルずつ削減していくならば、来年のFOMC会合は8回あるので、は、150億ドル x 8 回= 1,200億ドルとなって緩和縮小の完了時期2022年12月です。

 では利上げはいつから始まるのか?クラリダ副議長は2023年からの利上げを予想していますが、FRBは緩和縮小完了から利上げ開始までに一定の期間を置くことが必要と考えています。前回の利上げサイクルでは、量的緩和が終了したあと最初の利上げまでに1年2ヵ月の間隔がありました。

 ということは、2023年から利上げサイクルを始めるならば、緩和縮小をできるだけ早く、そして減額幅を大きくすることが必要。これがFRBタカ派の主張です。一方、ハト派のパウエルFRB議長は、緩和縮小の妥当性は認めながらも、利上げに対しては慎重。利上げは、FRBのデュアルマンデートである「物価の安定」と「完全雇用」の両方が達成されて初めて行うというのが、タカ派、ハト派の共通の認識です。

 9月FOMC(米連邦公開市場委員会)前に発表される「最後の」雇用統計の非農業部門雇用者の増加数は市場予想の75.0万人を大幅に下回り、わずか23.5万人にとどまりました。

 FOMCは、政策目標を、期間や数字定めた定量的なガイダンスから、「最大雇用と物価安定の目標達成に向け一段の著しい進展があるまで」という、定性的なガイダンスへと修正しています。タカ派とハト派では雇用統計の結果に対して異なる解釈をするでしょう。利上げ開始時期は再び不透明になりました。