1億超えでも会社員でいる理由

「FIREしない理由」と「会社員でいる理由」は、イコールのようでイコールではない。最初の質問「FIREしない理由」とは別に、お二人が「会社員でいる理由」を掘り下げてみよう。

 お二人には、「仕事内容や職場環境への満足度を教えてください」という質問もさせていただいた。よしぞうさんは「50%」、JACKさんは「70%」と回答している。つまり、今の会社の居心地は、そう悪くないと想定できる。

 JACKさんは1,500人規模の企業の課長職。部下を連れて飲みに行き、気前よくおごるいい上司だ。取材時も、頭の回転が速く、好奇心旺盛で、華のあるお人柄なのが感じ取れた。いかにも部下から慕われていそうだ。

 不動産投資にも着手しているJACKさんは「銀行から融資してもらい不動産投資にもっと力を入れたい。そのためにも、身元がはっきりした会社員であることは貴重な武器」と語る。

 多方面で挑戦したいJACKさんのベース(基地)は、意外にも「手堅く会社員であること」なのかもしれない。

 対してよしぞうさんは、こちらの質問に熟考し、言葉を選んで丁寧に答えてくれる温和なお人柄。誠実さを感じさせる笑顔が印象的で、仕事仲間からの信頼を得ていることは想像に難くない。

 また、過去に金融関連企業に勤めていた経験を生かし、AFP(日本FP協会が運営するFP資格)を取得。社内・社外に通用する付加価値を磨く努力も怠らない。

 つまり、お二人とも、自分の会社に自分の居場所がきちんとあり、良好な職場環境の中で働いていることが分かる。加えて、会社を基地としながらも、執筆や投資仲間との交流など、会社以外でも、経験や人となりが認められる有意義なコミュニティーに属している。

 お二人にとって、会社員であることは人生の一部にすぎない。だからこそ、会社員の窮屈な縛りが、苦痛になりすぎないのだろう。

 最後に、お二人に「今後、FIREする予定はありますか?」「資産がいくらになったらFIREしますか?」と聞いてみた。

 JACKさんは「ない」ときっぱり。「資産額も不動産もそれなりにあるから、FIREする・しないに、資産の大きさはあまり関係ない」と、大物投資家の余裕を感じる回答だ。

 一方、よしぞうさんは、FIREに少し魅力を感じているよう。

「資産が1億円を超えた時、一度FIREを考えましたが、その後、手痛い損を経験して、やはり2億円は必要、と考え直しました。しかし、最近では、来年ぐらいからFIREしてみようかという想いも少し芽生えてきました」と答えている。

 資産が2億円に到達してから、というだけでなく、考えが変わってきたもう一つの理由は、コロナ禍だ。

「コロナ禍に限らず、病気や事故によって亡くなったり、後遺症が残ってやりたい事ができなくなったり、行きたい場所にいけなくなることもありえます。家族と過ごす時間を犠牲にして働き続け、資産を大きく増やしても、それを使うことなく人生が終わってしまったのであれば意味がない。一度きりの人生です。年内は正社員として働き続ける予定ですが、その後、FIREするかどうか、今まさに模索中です」(よしぞうさん)

 資産を築き、自分の居場所を築き、FIREした後、やりたいことのイメージもつかめているお二人が、FIREせず会社員でいる理由は、ズバリ「FIREしてもしなくても今の人生が楽しいから」。

 会社と投資資産の両輪で収入があり、どちらも充実して楽しい、という強みは、「嫌になったらいつでも会社を辞められる」、という余裕を生む。

 FIREを夢見て、資産倍増計画に着手することは、この、精神的・資金的余裕を作る一助になる。ただ、投資によって、今の人生がギスギスしたり、余裕がないものになっては元も子もない。

 FIREしない二人の億り人の生き方は、「今の過ごし方が、未来の過ごし方につながっている」という基本に気付かせてくれる。