1億超えでもFIREしない理由

 二人に共通する「FIREしない理由」は、まず、「過去に投資で大失敗した経験がある」という点だ。

 JACKさんは911米国同時多発テロ下の波乱相場で、国内大手都市銀行株で含み損を抱え、リーマンショックで1,000万円以上の損失を食らっている。

 よしぞうさんは、2008年のリーマンショックで、2,500万円から900万円へと資産が64%にも減少。さらに2018年には集中投資をしていた保有株の急落により、1億円から6,600万円へと34%も減少する事態を経験している。

「場が荒れて、投資で稼げない時を経験したので、サラリーでの安定した稼ぎはやはり安心できます」とJACKさん。●●ショック下で保有株が暴落していても、明日も向かうべき職場があり、月末には給与が振り込まれるという事実は、さぞかし心を落ち着かせてくれたことだろう。

 よしぞうさんも「安定した収入がなくなると、投資資産頼みとなります。会社員を続けて安定した収入を得るという事は、暴落時でも動揺を防ぐ心理的ストッパーとして機能してくれる」と語る。

 特にJACKさんは、仮想通貨やFXなど値動きの激しい金融商品にも投資している。場が荒れた時の安定剤としてはもちろん、大きな勝負に出たいときにも、給与という安定収入は、背中を押してくれる要因の一つといえるだろう。

 現在、会社員として投資をしている読者も多いと思われるが、上記お二人のように、安定収入があるサラリーマンのうちに、少額でさまざまなスタイル・銘柄の投資に挑戦し、取り返しがつくレベルの失敗を重ねておくことをお勧めしたい。

 今回のコロナショックで、市場に振り回された個人投資家も少なくないが、特に初心者にとっては、投資家としての経験値を積む、一度は通るべき試練だったともいえる。

 もう一つ、彼ら二人に共通しているのが、「お子さんがいる」という点だ。自分一人、または妻と二人ならば、いざというときの金銭感覚のすり合わせや、環境の変化にある程度順応でき、ダメだと思えば思い切った転身もできる。

 ただ、子供がいるとなると話は別。JACKさんもよしぞうさんもお子さんは二人。

「我が家(4人家族)では月の生活費が40万円、年間最低でも500万円ほど必要です。もし今FIREしたとしたら、1億円あっても、20年間で使い切ってしまいます」(よしぞうさん)。

 ここへ、留学など想定外の教育費がかかった場合、すべてのシミュレーションが狂うことは間違いない。

 幼稚園から大学まですべて国公立で約1,000万円、すべて私立では約2,300万円(文部科学省調べ)の教育資金がかかるといわれる昨今。子供が独り立ちするまでは、教育費と生活費を最優先に守る必要がある。

 安易にFIREした後、資金不足で進学をあきらめさせたくないのは、親共通の思いといえるだろう。

 さらに、よしぞうさんが懸念しているのは年金支給開始年齢だ。

「今、年金支給開始年齢は65歳ですが、私達の老後の頃には70歳、75歳になっている可能性もある。もし早期リタイアしていたら、FIRE当時のライフプランシミュレーションとは事情が変わり、老後に資金不足に陥る可能性があります」

 体の自由が利かなくなってからの予定変更はかなりツライはず。資金シミュレーションの試算ブレは少ないにこしたことはない。国策もにらみながら、いつまで働き、いくら手にしてリタイアするのかを、慎重に考えるべきだ。