FIREしたい、という思いが最も強くなる時間帯は、おそらく通勤時、靴を履くときではないだろうか。外が大雨、猛暑の場合、その思いはさらに切実になるはずだ。
しかし、誰もがみな、「資産さえあればいつでも会社員を辞めるのに」と考えているとは限らない。資産が1億円を超えているにもかかわらず、月曜日から金曜日まで、片道1時間かけて会社へ通い、時には残業で深夜の電車に揺られて船をこぐ。
そんな、億り人サラリーマン二人に、「億の資産を持ちながら、あなたはなぜFIREしないのか」と聞いてみた。
1人目は人気投資家、JACKさん。投資歴も長く、執筆した投資本も売れている有名人だ。資産は2億円超え。得た利益で不動産投資を行い、そちらでも成功している。そして、中堅企業で多くの部下を抱える課長職のサラリーマンだ。
2人目は中国株で1億円の資産を築いているよしぞうさん。中国株ブログランキングで常に上位につけている人気ブロガーで、中国株のベテラン投資家だ。こちらも一般企業に勤務するサラリーマンで、残業時間は月25時間を超えるときもある。
回答してくれた方
JACKさん
バーテンダーや予備校講師と多彩な職歴を歩み、現在は中堅企業の課長職にある兼業投資家。IPO(新規公開株)メインの株式投資、不動産投資、FX、仮想通貨など幅広く投資を行う。
著書に『1万円を1年で100万円に! はじめての人の「株式」投資生活』(ぱる出版 2016/12/3)や『百人百色の投資法』シリーズ(パンローリング株式会社 2016/8/5)がある。ツイッターアカウント@jackjack2010
Q もしFIREしたらどう過ごす?
A 場が始まる前は犬とまったり遊びたい。場が始まったら場に貼りつきます。夕方からは飲みに行こうかな。
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よしぞうさん
中国株ランキングで常に上位の人気ブログ『よしぞうの投資ライフ(億超えの次へ)』を運営する、AFP(日本FP協会が運営するFP資格)の資格を持つベテラン投資家。一般企業に勤務する兼業投資家。2004年10月、100万円を元手に中国株投資を開始し、2018年、ついに投資資産1億円を突破。
現在はさらにその後、保有銘柄は、テンセント、アマゾンなど。投資手法は長期投資・集中投資。Twitterアカウント よしぞう@yosizoudesu
Q もしFIREしたらどう過ごす?
A 家族とバーベキューしたり、夫婦でカフェ巡りするなど家族との時間を大切に過ごしたいですね。
▼よしぞうさんのインタビューを読む
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人気投資ブロガーインタビュー よしぞうさん 後編 よしぞうさん厳選!中国株&米国株の注目銘柄
1億超えでもFIREしない理由
二人に共通する「FIREしない理由」は、まず、「過去に投資で大失敗した経験がある」という点だ。
JACKさんは911米国同時多発テロ下の波乱相場で、国内大手都市銀行株で含み損を抱え、リーマンショックで1,000万円以上の損失を食らっている。
よしぞうさんは、2008年のリーマンショックで、2,500万円から900万円へと資産が64%にも減少。さらに2018年には集中投資をしていた保有株の急落により、1億円から6,600万円へと34%も減少する事態を経験している。
「場が荒れて、投資で稼げない時を経験したので、サラリーでの安定した稼ぎはやはり安心できます」とJACKさん。●●ショック下で保有株が暴落していても、明日も向かうべき職場があり、月末には給与が振り込まれるという事実は、さぞかし心を落ち着かせてくれたことだろう。
よしぞうさんも「安定した収入がなくなると、投資資産頼みとなります。会社員を続けて安定した収入を得るという事は、暴落時でも動揺を防ぐ心理的ストッパーとして機能してくれる」と語る。
特にJACKさんは、仮想通貨やFXなど値動きの激しい金融商品にも投資している。場が荒れた時の安定剤としてはもちろん、大きな勝負に出たいときにも、給与という安定収入は、背中を押してくれる要因の一つといえるだろう。
現在、会社員として投資をしている読者も多いと思われるが、上記お二人のように、安定収入があるサラリーマンのうちに、少額でさまざまなスタイル・銘柄の投資に挑戦し、取り返しがつくレベルの失敗を重ねておくことをお勧めしたい。
今回のコロナショックで、市場に振り回された個人投資家も少なくないが、特に初心者にとっては、投資家としての経験値を積む、一度は通るべき試練だったともいえる。
もう一つ、彼ら二人に共通しているのが、「お子さんがいる」という点だ。自分一人、または妻と二人ならば、いざというときの金銭感覚のすり合わせや、環境の変化にある程度順応でき、ダメだと思えば思い切った転身もできる。
ただ、子供がいるとなると話は別。JACKさんもよしぞうさんもお子さんは二人。
「我が家(4人家族)では月の生活費が40万円、年間最低でも500万円ほど必要です。もし今FIREしたとしたら、1億円あっても、20年間で使い切ってしまいます」(よしぞうさん)。
ここへ、留学など想定外の教育費がかかった場合、すべてのシミュレーションが狂うことは間違いない。
幼稚園から大学まですべて国公立で約1,000万円、すべて私立では約2,300万円(文部科学省調べ)の教育資金がかかるといわれる昨今。子供が独り立ちするまでは、教育費と生活費を最優先に守る必要がある。
安易にFIREした後、資金不足で進学をあきらめさせたくないのは、親共通の思いといえるだろう。
さらに、よしぞうさんが懸念しているのは年金支給開始年齢だ。
「今、年金支給開始年齢は65歳ですが、私達の老後の頃には70歳、75歳になっている可能性もある。もし早期リタイアしていたら、FIRE当時のライフプランシミュレーションとは事情が変わり、老後に資金不足に陥る可能性があります」
体の自由が利かなくなってからの予定変更はかなりツライはず。資金シミュレーションの試算ブレは少ないにこしたことはない。国策もにらみながら、いつまで働き、いくら手にしてリタイアするのかを、慎重に考えるべきだ。
1億超えでも会社員でいる理由
「FIREしない理由」と「会社員でいる理由」は、イコールのようでイコールではない。最初の質問「FIREしない理由」とは別に、お二人が「会社員でいる理由」を掘り下げてみよう。
お二人には、「仕事内容や職場環境への満足度を教えてください」という質問もさせていただいた。よしぞうさんは「50%」、JACKさんは「70%」と回答している。つまり、今の会社の居心地は、そう悪くないと想定できる。
JACKさんは1,500人規模の企業の課長職。部下を連れて飲みに行き、気前よくおごるいい上司だ。取材時も、頭の回転が速く、好奇心旺盛で、華のあるお人柄なのが感じ取れた。いかにも部下から慕われていそうだ。
不動産投資にも着手しているJACKさんは「銀行から融資してもらい不動産投資にもっと力を入れたい。そのためにも、身元がはっきりした会社員であることは貴重な武器」と語る。
多方面で挑戦したいJACKさんのベース(基地)は、意外にも「手堅く会社員であること」なのかもしれない。
対してよしぞうさんは、こちらの質問に熟考し、言葉を選んで丁寧に答えてくれる温和なお人柄。誠実さを感じさせる笑顔が印象的で、仕事仲間からの信頼を得ていることは想像に難くない。
また、過去に金融関連企業に勤めていた経験を生かし、AFP(日本FP協会が運営するFP資格)を取得。社内・社外に通用する付加価値を磨く努力も怠らない。
つまり、お二人とも、自分の会社に自分の居場所がきちんとあり、良好な職場環境の中で働いていることが分かる。加えて、会社を基地としながらも、執筆や投資仲間との交流など、会社以外でも、経験や人となりが認められる有意義なコミュニティーに属している。
お二人にとって、会社員であることは人生の一部にすぎない。だからこそ、会社員の窮屈な縛りが、苦痛になりすぎないのだろう。
最後に、お二人に「今後、FIREする予定はありますか?」「資産がいくらになったらFIREしますか?」と聞いてみた。
JACKさんは「ない」ときっぱり。「資産額も不動産もそれなりにあるから、FIREする・しないに、資産の大きさはあまり関係ない」と、大物投資家の余裕を感じる回答だ。
一方、よしぞうさんは、FIREに少し魅力を感じているよう。
「資産が1億円を超えた時、一度FIREを考えましたが、その後、手痛い損を経験して、やはり2億円は必要、と考え直しました。しかし、最近では、来年ぐらいからFIREしてみようかという想いも少し芽生えてきました」と答えている。
資産が2億円に到達してから、というだけでなく、考えが変わってきたもう一つの理由は、コロナ禍だ。
「コロナ禍に限らず、病気や事故によって亡くなったり、後遺症が残ってやりたい事ができなくなったり、行きたい場所にいけなくなることもありえます。家族と過ごす時間を犠牲にして働き続け、資産を大きく増やしても、それを使うことなく人生が終わってしまったのであれば意味がない。一度きりの人生です。年内は正社員として働き続ける予定ですが、その後、FIREするかどうか、今まさに模索中です」(よしぞうさん)
資産を築き、自分の居場所を築き、FIREした後、やりたいことのイメージもつかめているお二人が、FIREせず会社員でいる理由は、ズバリ「FIREしてもしなくても今の人生が楽しいから」。
会社と投資資産の両輪で収入があり、どちらも充実して楽しい、という強みは、「嫌になったらいつでも会社を辞められる」、という余裕を生む。
FIREを夢見て、資産倍増計画に着手することは、この、精神的・資金的余裕を作る一助になる。ただ、投資によって、今の人生がギスギスしたり、余裕がないものになっては元も子もない。
FIREしない二人の億り人の生き方は、「今の過ごし方が、未来の過ごし方につながっている」という基本に気付かせてくれる。
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