毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄:エヌビディア(NVDA、NASDAQ)アドバンスド・マイクロ・デバイシス(AMD、NASDAQ)インテル(INTC、NASDAQ)アップル(AAPL、NASDAQ)

1.パソコンの再評価が進んでいる

 今回はパソコン関連の半導体について考えます。

 グラフ1はパソコンの世界出荷台数を見たものです。パソコンの世界出荷台数は2011年3億6,400万台でピークを付け、その後下降局面入りし、2016~2018年に2億6,000万台で底這いしました。

 その後、2019年に2億6,800万台へ少し回復した後、2020年に3億300万台へパソコンとしてはこれまでに比べ大きく回復しました。これは、新型コロナ禍に対応して各国で人々が巣篭ってテレワークを行う中で、仕事をするために一定以上の性能のパソコンが必要になったからです。

 新型コロナ禍が始まるまでは、パソコンは成熟した成長性のないコンピュータであって、スマートフォンやタブレットPCに大きな成長性があるということが一般的な認識でした。その認識が新型コロナ禍で一変しました。家で仕事をするにはパソコンが必要であるという、至極当たり前のことに多くの企業と人々が気付きました。また、通常のオフィスワークだけでなく、開発、設計やデザイン、音楽、映像などのクリエイティブ系の仕事を自宅で行う場合は、専門分野の使用に耐える高性能パソコンが必要になってきました。要するに、自宅に適当な性能のパソコンが1台あれば足りたものが、場合によっては自宅にも複数台の高性能パソコンが必要になってきたのです。

 このように、パソコンを再評価する動きが、2020年の年初から始まり、現在に至るまで続いています。

 グラフ1では、今年2021年のパソコン出荷台数を3億3,000万台としています(楽天証券予想)。しかし、4月下旬に開催されたインテルの2021年12月期1Q決算電話会議において会社側は、業界では1日約100万台のパソコン出荷に戻るとみているとコメントしました。これは年率で3億6,000万台となり、過去最高の出荷水準と並ぶものです。2021年のパソコン市場に注目したいと思います。

 中長期で見ると、世界のWindowsユーザーは約15億人と言われており、それ以外のOSを含めるとオフィスワークでパソコンを使っている人は15~20億人と思われます。世界人口約78億人と比べると、パソコンの伸び代はまだまだ大きいと言えます。

グラフ1 パソコンの世界出荷台数

単位:100万台、暦年ベース、出所:IDCプレスリリースより楽天証券作成

グラフ2 パソコン世界出荷台数(四半期ベース)

単位:1,000台、出所:iDCプレスリリース、報道資料より

表1 パソコン出荷台数

単位:1,000台
出所:IDCプレスリリースより楽天証券作成

2.ゲーミングPCなど専門色の強い高性能パソコンも重要

 仕事だけでなく、遊びの世界、ゲームの世界でもパソコンが普及しています。ただしこれは新型コロナ禍が始まる前からです。スマホゲームや家庭用ゲームでは満足できないゲーム愛好家が高性能ゲーミングPCや自作PCでオンランゲームを楽しんでいます。これには、この数年間大きな流行になっているeSportsが大きな影響を与えていると思われます。2020年時点でeSportsの競技人口は全世界で1億人以上、観客は4億人以上存在し、年々増加しています(Newzooによる)。使うゲーム機は様々ですが、パソコン(デスクトップパソコン)が多いようです。

 また、PS5の影響もあると思われます。PS5の仕様の一部が公開されたのは、2019年4月ですが、この時に公開されたPS5の「レイトレーシング」がパソコンゲーム愛好家の間で話題になりました。レイトレーシングは光線(レイ)の屈折や反射を追跡(トレース)するように描画するもので、映像表現が一段とリアルなものになります。その後2020年11月に発売されたPS5が長期の品不足に陥ったこともあり、レイトレーシングのような新しいゲーム技術をゲーミングPCで体験しようという動きが広がっているようです。

 ゲーミングPC市場は2020年4,070万台(前年比13.4%増)とパソコン市場全体からすると大きくなく、伸び率も高くありませんが、安いもので10~20万円、高いもので20~30万円と業務用パソコンに比べ高価格なので、パソコンメーカーが注力している分野です。

 また、ゲーミングPCだけでなく、デザイン、画像処理など専門分野での使用に耐える高性能パソコンも重要になっています。

表2 ゲーミングPCの出荷台数予想

単位:万台、%
出所:IDCプレスリリースより楽天証券作成。予想はIDC。

3.パソコン用CPU、GPUの動き

1)インテルとAMD

 パソコンの再評価が進むことによって、パソコン用CPU、GPU(グラフィックプロセッサー)の世界にも大きな動きが出ています。

 もともとこの分野で大きなシェアを持っていたインテルは、10ナノラインの構築に手間取り、次いで7ナノラインの構築にも時間がかかり、2018年からパソコン向けCPUの供給が不足するようになりました。その間に最新型CPUの生産をTSMCに委託するようになったAMD(アドバンスド・マイクロ・デバイシス)が最新のパソコン用7ナノCPU、GPUを2019年7月に発売しました。

 この7ナノCPU、GPUは大ヒットし、インテルのパソコン用CPUの供給不足と相まって、AMD製CPUの市場シェアが上昇することになりました。AMD製7ナノCPU、GPU発売後の2019年10-12月期のx86系CPUの市場シェアは、インテル84.9%、AMD15.1%でしたが、1年後の2020年10-12月期はインテル78.3%、AMD21.7%となっています。インテルは最新鋭の7ナノラインの構築が完了するのが2022年になるとしていますが、TSMCも設備投資を急いでいるため、パソコン用CPU市場におけるAMDのシェア上昇は2022年まで続く可能性があります。

 なお、AMDは2022年に5ナノCPU(生産はTSMC)を投入すると思われます。これが、インテルの7ナノCPU、後述のようにインテルがTSMCから調達すると報道されている3ナノチップ、アップルが2022年後半に発売すると予想される3ナノSoC搭載パソコンとどう競争していくのかが今後の注目点です。

 一方、インテルも現在7ナノラインを構築中であり、2022年に稼働開始する予定です。稼働中の10ナノラインも増強中です。これらの設備投資が成功すればパソコン向け先端CPUの供給が大きく増えることになります。

 インテルについては重要なニュースがあります。報道によれば、インテルとアップルは2022年後半にTSMC製3ナノチップを導入するもようです。TSMCの最先端品を最初に導入するのはこれまでアップルのみであり、TSMCが生産する3ナノSoCもiPad、iPhone、Macに順次搭載されると思われます。しかし、報道の通りであれば2022年後半にはインテルも最先端の3ナノチップをTSMCから調達することになるもようです。報道では、インテルはパソコン用とデータセンターサーバー用3ナノチップを開発中ということです。実際にそうだとしたら、インテルにとっては競争力強化につながると思われます。

表3 インテル、AMD、エヌビディアの四半期売上高

単位:百万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

2)アップルの動き

 アップルは、CPU、GPUを外販せず内製しているのみですが、パソコン用半導体に対して大きな影響力を持つようになりました。アップルが開発したアームアーキテクチャーによるパソコン用5ナノSoC(CPU、GPU、周辺半導体を一つのシリコン基板上に構築したもの)「M1」を搭載した「MacBook Air」等3機種のMacPCが2020年11月に発売されました。これが、11万円台の最低価格で購入できることもあいまって大ヒットしました。2020年10-12月期のアップル製パソコンの出荷台数は734.9万台(前年比49.2%増)、2021年1-3月期は前年同期が新型コロナ禍による生産減少で落ち込んだこともあり669.2万台(同2.1倍)となりました(IDCによる)。

 重要なのは、高性能でコストパフォーマンスが良いパソコンであれば、「OSの壁」を軽々と超えてヒットするということです。アップルによれば、2020年10-12月期、2021年1-3月期の購入者の約半分が新規ユーザーでした。

 アップルは2022年後半までに5ナノSoCをMac全機種に行き渡らせる方針です。その後、おそらく2022年後半に3ナノSoC搭載の新型Macを発売すると思われます。