2021年後半の相場展開

 2021年の米株式市場では、バイデン政権の積極的な経済対策とワクチン接種の進捗に伴う景気回復加速が好感され、景気・バリュー銘柄が堅調に推移しました。

 一方で、インフレ高進、金融緩和解除を不安視するグロース株は急落し、4~5月へと調整を深めました。その間、強い経済・インフレ指標が出ると、市場はFRBのタカ派傾斜を先走って臆測しては過剰に反応したものです。

 しかし、当レポートで述べてきたように、FRBが金融政策方針を転換する段階にはなく、是々非々対応の一環としてタカ・ハト両サイドの示唆を提供しては、市場の過熱も暴落も回避してきたと言えます。

 6月のFOMCでは、言葉でハト派的に経済サポートの継続を強調しつつ、経済・金利見通しでタカ派的道筋を示し、市場に首尾良く織り込ませました。長期金利は低下して、グロース銘柄が復調に向かったことで、株式相場は経済指標の振れに目を慣らし、FRBの一挙手一投足への過敏な反応を和らげるに至りました。

 7月はかねて想定した通り、市場が金融政策過敏症をいったん落ち着かせ、この段階の経済指標をアレコレ深読みすることの無意味さを悟って、しばし相場の復調を期待させる地合いになっていると判断します。しかし、2021年初来の1カ月スパンで浮沈した相場リズムの余波をまだまだ拭えないかもしれず、海外勢が夏期休暇に入る前までの一相場を基本シナリオとしています。

 その後、いずれ雇用の増加ペースが加速し、経済のデフレ・ギャップ解消に至る流れの中で、FRBは金融緩和解除への道筋を徐々に具体化していくでしょう。8月下旬のジャクソンホール・シンポジウム、9月のFOMCを経て、市場は10~12月には、(テーパリングの開始より)利上げ時期の前倒しを警戒する波乱に直面するかもしれないというのが、現時点の中心シナリオです。

 FRBにとっても、市場にとっても、もちろん筆者にとっても、まだまだ相場シナリオ分岐の不確実性が大きい段階です。この中心シナリオは、時間の経過と共に変化する諸条件を織り込みながら、投資スタンスを調整していく上での基本視座とします。

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