ガバナンス・リターンは一回限り

 さて、投資家の立場に戻ろう。

 B社的な企業がA社的な企業を目指す過程で生じる「ガバナンス・リターン」は、毎年継続的に発生させられるようなものではない、一過性のリターンだ。そうであるが故に、投資家にとっては、B社的なガバナンス・ダメ企業の方が、A社的なガバナンス優等生企業よりも投資の点で魅力的である可能性が生じる。

 実際には、B社的な企業がそのまま株主から見て非効率的な経営を続ける可能性もあるのだが、A社的な企業は単にガバナンスを改善することによっては株価を上げることが出来ない。

 さて、強引な当てはめだが、例えば近年株価が好調な米国の企業がA社で、株価の動きがパッとしない日本企業がB社なのだとすると、読者はどちらに投資したいだろうか。当面の気分がいいのはA社的な企業への投資かも知れないが、長期的にはB社的な企業への投資が優れている可能性がある。ガバナンス・リターンを先に使った米国株よりも、まだ使っていない日本株に投資する方が有利である可能性があると思うのだが、どうだろうか。

 何れにせよ、ESG、SDGsなどの世間的な正義の観点が企業価値の評価として有効であればあるほど、優等生への投資が必ずしも有利ではないという皮肉な構造が市場に埋め込まれていることは覚えておきたい。

 尚、投資のセオリーとしては、A社にもB社にも投資する分散投資が正しいことを申し添えておく。