優等生よりも劣等生の改善!

 A社は優れたガバナンスが評価されて既に株価が高く形成されている。ガバナンスの改善だけで株価を上昇させる余地は乏しい。

 一方、B社は、経営者が良い方向に心変わりするだけで、ビジネスが改善しなくとも株価を上げることが出来る。ガバナンス・リターンが発生する余地がある。

 世間的には、ガバナンスが既にいいA社のような会社に投資するのがいいと言われる可能性が大きいが、実は、何社に1社あるのかは分からないが、ガバナンスを変えるだけで改善の可能性があるのはB社的な企業だ。

 筆者が投資家なら、B社的な企業にこそ投資したいと思う。もちろん、B社に何の改善も起こらない可能性はあるが、経営者の「心変わり」だけで株価を上げられるポテンシャルには魅力がある。同様に考える読者は少なくないのではないか。

 他方、現時点で株主から見たガバナンス状況が良くない企業への投資に対して苛立つ人もいる。いわゆる、「ESG投資」を推進しようとするような人々だ。

経営者を動かす方法

 さて、B社的な「ガバナンス劣等生」企業に実は案外投資妙味があると理解したとして、問題はB社の経営者にA社的な経営を目指すようにさせる動機付けだ。

 先ほど、B社の経営者の心変わりの原因として、証券会社の入れ知恵を取り上げたが、B社に食い込んだ証券マンが経営者に何を入れ知恵すると、B社はA社的な経営を目指すようになるだろうか。

 その方法は案外簡単だ。B社の経営者や、経営者の一族・側近などに、自社株や自社株を原資産とするストックオプションを持たせて、株価を上げる操作に対して動機付けを行うといい。特別に強欲な人でなくとも、経営者には「自分が経済的にもっと報われてもいい」と思っている人が多いので、この画策は上手く行く公算が大きい。

 知恵を付けた証券会社としては、B社の株価を上げることに成功しそうだし、経営者一族の資産運用に食い込むことができそうだ。また、その過程でB社に社債発行で資金調達を行わせるなど、証券会社のビジネスに貢献する可能性が大きい。

 因みに、近年導入の重要性が強調されている社外取締役は、現実的には経営者によって選ばれるので、経営者への報酬を増やすことに対して正統性を裏書きする賛同者になりやすい。率直に言って「社外の人」はビジネスの機微が分からない。社外取締役は、経営者への報酬増加に賛成する「応援団」になりやすい。社外取締役を導入することが、業績の改善につながっているとするような研究結果は殆ど見たことがない。

 経営者の経済的な利害を自社の株価の上昇に強くリンクさせる方法は、株主から見て、経営者を「買収」することを実現したに等しい。