金、銀価格は上昇。全体的なコモディティ価格の下落が、金融緩和継続期待を強める

「全体」および「個別」の両面で下落要因が発生し、コモディティ(商品)相場の多くが、5月上旬以降、調整していると書きました。しかし一方で、上昇している銘柄もあります。金、銀、原油、温室効果ガス排出権です。

図:金・銀・原油・温室効果ガス排出権の価格推移

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 金は、この1カ月強、一貫して上昇しています。前回述べたとおり、新型コロナ変異株の感染が拡大していることで「有事のムード」が強まり、「資金の逃避先」需要が増加していることが一因とみられます。

 また、複数のコモディティ(商品)価格が調整局面にあり、一時的に強まった物価高(インフレ)のムードが落ち着きつつあるため、米国の金融政策がすぐに引き締め方向に向かわない可能性があると、筆者は考えています。

 このため、金融緩和がきっかけで発生している「代替通貨(ざっくり言えば“ドルの代わり”)」の側面からの金相場への上昇圧力が、目先も継続する可能性があります。

 さらには、米国の長期金利の目安になる米10年債利回りに頭打ち感が出ていることや、ドル指数が下落していること、(代替通貨の側面を持つ通貨として競合する)ビットコインが弱含んでいることなどにより、複数の経路で「代替通貨」の側面から、金に注目が集まっていると考えられます。

 銀は、金よりも変動率がやや高い傾向がありますが、特に銀特有の強い材料(例えば、2021年1月下旬にSNSを介して発生した、米国の個人投資家の共闘など)がない限り、金に連動する(価格が動く際、同じような山と谷を描く)傾向があるため、この1カ月強、金とともに上昇しています。

原油・排出権価格も上昇。原油相場上昇の主因は、米国の生産力低下か

 温室効果ガス排出権は、底値を切り上げながら、上昇しています。世界的な「脱炭素」ブームの中、温室効果ガスを排出せざるを得ない国や企業が、そうでない国や企業との間で炭素の排出権を融通する需要が高まる観測から、排出権の国際価格が史上最高値近辺で高止まりしています。

 しばらくの間、パリ協定で宣言した排出目標を達成するために、企業や国は、排出権を融通し(売買し)、「実質削減」を目指すと考えられます。

 同協定を順守しながら、豊かな生活を維持したり経済活動を継続したりするためには、温室効果ガスを排出しながら、排出しなかったことに(実質ゼロに)しなくてはならず、ここに、温室効果ガス排出権の売買のきっかけが生まれます。この点が、温室効果ガス価格の上昇の一因とみられます。

 原油については、OPECプラス(サウジやイラクなどのOPEC加盟国13カ国と、ロシアやカザフスタンなどの非OPECの主要産油国10カ国、合計23カ国)が実施している原油の減産が続く中、米国で、新型コロナショック(同ウイルスがパンデミック化したことをきっかけに2020年3月に発生した、ジャンルを問わない多数の主要相場の急落)により、複数の主要なシェール業者が破綻して生産力が低下し、世界全体の需給バランスが供給過剰になりにくくなっていることが、上昇の一因とみられます。

 以下は米国のシェール主要地区および、米国全体の原油生産量の推移です。新型コロナショック発生後の最悪期となった同年5月以降、原油生産量はほとんど横ばいです。

図:米シェール主要地区と米国全体の原油生産量 単位:百万バレル/日量

出所EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

 以下は、米シェール主要地区の開発関連指標といえる、掘削済井戸数と仕上げ済井戸数および原油価格の推移です。開発関連指標は、新型コロナショック発生前の5~7割程度の回復にとどまっています。

 原油価格は同ショック発生前の水準に戻ったものの、開発が十分に回復していないことがわかります。先述のとおり、同ショック後に生産力が低下したことを裏付けています。

図:米シェールの開発関連指標と原油価格

出所EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成