ビットコイン暴落を読む

 尺度のない相場をみる指針は、相場の値動きだけ、すなわちテクニカル分析が主になりがちです。筆者はテクニカル分析を、複雑な値動きからトレンド、行き過ぎ、変曲点(勢いの変化点)、パターンなどをデフォルメする「相場の似顔マンガ」というほどに扱っています。

 厳密な分析に適う道具でないものの、そもそも不確実な相場に厳密な科学は通用しないこと、シンプルさ故に使う投資家が多いことで自己実現相場も起こり得ること、そして、仮想通貨相場で主流の分析方法であろうことから、最近のビットコイン暴落の顚末(てんまつ)を、いくつかのテクニカル分析で見てみることにします。

 ビットコイン相場は、図1の上段で2021年2~4月に3つの山を切り上げる一方、下段では相場のモメンタムを見るMACDが山を切り下げる「ダイバージェンス」が生じています。

 相場が上昇を続けているのに、勢いが鈍る展開は、既参入の投資家がリスク判断を緩めて膨らませた投資ポジションが簡単には儲からなくなったことに漠然と不安を感じる場面です。

 そこを、米中による仮想通貨への規制強化の報道、イーロン・マスク氏のネガティブなツイートが、逃避行動へと背中を押したようです。

 もっとも、こうしたニュースと相場暴落の始動とは必ずしもタイミングが一致しないという指摘もあり、相場の「内的力学」として自律的に反落に向かう下地を主要因として見ることも可能です。

図1:ビットコイン相場と主要テクニカル分析

*移動平均は22、66、200日、MACDは12-26-9日セット、フィボナッチは2020年3月底値を基点に算出
出所:Refinitiv、田中泰輔リサーチ

 相場がいざ暴落すると、その落差は相場全般における含み益の大きさを反映しがちです。

 図1では、2021年2~5月に青影部分で作られたポジションが、相場下落時に含み益から含み損に転じ得る価格水準が近い一群です。

 これを抱える投資家は売り逃げようと狭い出口に殺到し、相場下落を激化させました。強制売却のポジションもあるため、一気に青影ゾーンを下回るまで下落を促した面もあります。

 相場急落の下値メドでは、一般に相場トレンドとされる移動平均の長期、中期、短期線のどれで止まったか(止まらなかったか)が指摘されます。

 今回、ビットコインは200日長期移動平均線を一気に割り込み、一相場の終息感を窺(うかが)わせます。

 また、日本古来の3分の1押し、半値押し、3分の2押し、あるいは欧米由来のフィボナッチ・リトレースメントの38.2%、50%、61.8%の下落のうち、▲50%の半値押し水準に至っています。

 こうした値幅感は、ファンダメンタルズ分析からは算出されない、いわば経験則として認知されるものです。

 大幅下落によって初期殺到の売りが一巡すると、相場に短期的に大きめの反発が起り得ます。しかし、青影部分には含み損ポジションが残されているでしょう。これだけの下落の後しばらくは、相場の反発力より、この戻り売りの圧力をチェックする方が「内的力学」の評価としては重要と考えています。