今回の価格は「散発的な価格上昇」と「長期的な底値引き上げ」の同時進行によるもの。

 穀物や植物油相場の上昇要因として筆者が特に注目しているのは、(2)の南米の主要生産国アルゼンチンでの輸出税引き上げ、(4)の緩和マネーの流入、(6)新需要への期待であると述べました。このうち(6)は、やや他と性質が異なります。時間軸が長い点です。

「環境配慮」の動きは、コロナ禍がきっかけで急拡大しています。コロナ禍において、環境配慮をビジネスチャンスとする企業が増えていることなどが要因とみられます。大規模な選挙の際、コロナ禍というピンチの中で、環境配慮を前面に打ち出すことで票を稼ぐリーダーもいます。

「環境配慮」をブームにとどまらせず、実際に二酸化炭素の排出量を低減させる具体策を講じる上で、穀物が一定の役割を果たします。米国やブラジルで一般化した、トウモロコシなどの農産物を原料としたバイオ燃料は、二酸化炭素のもととなる化石燃料であるガソリンや軽油に添加して、ガソリンスタンドで販売されています。

 パリ協定への復帰を掲げて選挙戦を戦い、就任後即時に復帰を実現したバイデン米大統領は、EV(電気自動車)が一般化するまでの間、オバマ政権時と同様、バイオ燃料の利用を推奨する可能性があると筆者は考えています。

 バイデン政権下では、石油業界寄りだったトランプ政権時に話し合いがとん挫したとされる、ガソリンへのバイオ燃料の添加上限である10%を15%に引き上げる議論が、進展する可能性があります。この議論が進展すれば、米国国内のトウモロコシの需要が増加するとみられます。

 また、「環境配慮」と穀物相場を語る上で、「代替肉」というテーマも欠かせません。代替肉とは、植物などの動物以外の生物を原料として作られた人工的な肉のことです。世界的に食肉需要は増加する傾向にありますが、その増加分の一部をこのような肉で代替することは、実は、エコに貢献する側面があります。

図:穀物相場の長期視点での注目材料

出所:筆者作成

 温室効果ガスは二酸化炭素だけではありません。体積が同じだった場合、二酸化炭素よりも温室効果が高いとされるメタンもまた、温室効果ガスの一つです。そのメタンの主な発生源は農業分野とされています。微生物の活動によって水田の泥から発生したり、家畜の反すう運動(げっぷ)、排泄物から発生したりします。

 食肉の需要増加に応じて家畜の頭数が増加すれば、それだけメタンの排出量も増加することになります。肉の需要を満たしながら、メタンの排出量を低減させ、「環境配慮」を実現するための手段に「代替肉」が挙げられると、筆者は考えています。

 世界規模の「環境配慮」ブームの中、今後、家畜由来のメタンの排出低減の必要性が高まれば、代替肉の需要は各段に増加する可能性があります。この時、大豆やトウモロコシを中心とした穀物需要の構造が、根底から変わる可能性があると、筆者はみています。

 こうした、需要構造の根底からの変化は、以下に示した「長期的な水準切り上げ」に貢献する材料と言えます。天候や輸出税などの生産国側の要因も、消費国側の要因も、数年や数十年単位の地殻変動のような根底からの水準切り上げ(パラダイムシフト)の要因になったことはありません。

図:シカゴトウモロコシ価格(期近 月足 終値) 単位:セント/ブッシェル

出所:ブルームバーグより筆者作成

 現状を考えれば、現在の穀物相場の上昇は、生産国と消費国それぞれがきっかけとなった「散発的な価格上昇」と新しい需要が発生する期待がもたらす「長期的な水準切り上げ」が同時に起きていることによって、発生していると言ってよいと、筆者は考えています。

 天候だけ、消費だけ、ではなく、長期的な視点に立ち、新しい需要が発生する期待を含めて、材料を俯瞰してはじめて、現在の穀物や植物油相場の急騰劇を説明できると思います。

 目先、短期的には、主要産地の米国が天候シーズンに入っているため、寒波などの影響で、さらに上値を伸ばす、それにつられて食用油の価格も上値を伸ばす可能性があると、考えています。長期的には、バイオ燃料、バイオプラスチック、代替肉など、環境配慮や新しい食文化が本格的に浸透する期待が膨らみ、長期的な底値切り上げが起きる可能性があると、現時点では、考えています。

[参考]具体的な穀物関連銘柄

国内株

丸紅 8002

海外ETF

iPath シリーズB ブルームバーグ穀物サブ指数
トータルリターンETN
JJG

外国株

アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドADM

ブンゲBG

商品先物

国内 トウモロコシ 大豆

海外 トウモロコシ 大豆 小麦 大豆粕 大豆油 もみ米