「合理的へそ曲がり」の運用戦略

 その後も、幸か不幸か(概ね「幸」だとは思うが)運用のパフォーマンスで深刻な苦労を味わう機会はなかったが、毎年どきどきしながら、時々使う手を変えながら、運用の仕事を続けていた。その間、市場を見て得た印象は「株式にせよ為替レートにせよ市場の価格形成はしばしば間違えているが、市場参加者にあってこれを事前に指摘する能力は残念なぐらい乏しく、また参加者間で大きな差がないのが現実だ」というものだ。

 価格形成が正しいという意味で市場が「効率的」なのではまるでないが、参加者の間で、確実に相対的な差を付けるのは極めて難しいゲームだ、というのが筆者の市場観だ。

 ところで、内外の株式市場では、利益、配当、純資産などに対して株価が割安な銘柄の方がリスク当たりの超過リターンの効率がいい傾向、いわゆる「Value効果」が観察されている。いい時も悪い時もあるが、長い目で見ると、Valueインデックスの方がGrowthインデックスよりもパフォーマンスがいいのが内外共に過去の経験だ。

 Value効果が働くのは、Growth株の相対パフォーマンスが悪いからだが、Growth株の相対パフォーマンス悪化の状況を見ると、(1)Growth株は相場全体の下落時に大きく下げる傾向がある、(2)市場で人気を博し時価総額を膨らませているいわゆる「グラマー・ストック」のリスクとリターンで見たパフォーマンスが悪い、という二点が目に付く。

 もともと、「利益や資産価値を一定とすれば、株価は安い方がいい」のが原則だし、加えて「人気が過剰になりやすいグラマー・ストックをアンダーウェイトするのは確率的に悪くない戦略だろう」とも言える。Value投資に一応の合理性はある。

 一方、不人気な株を買うのは精神的に抵抗感があるし、グラマー・ストックを持たないことに対してはもっと抵抗感を持ちやすい(特にファンドマネージャーは)。しかし、株価の評価を正しく行うことが誰にとっても難しいことなら、ポートフォリオ内に大きなウェイトの塊を持ったり、株価変動が大きい状態の株を持ったりすることは、リスク面で不利だ。従って、人気銘柄をアンダーウェイトにして、広く分散投資することも有利である可能性が高いと考えられる。

 概ねこのように考えて、「アルファ」を取るための戦略をあれこれ考え、試してみた。

「利益に対して割安な株を買う」、「リスクが小さい株を買う」、「出来高が乏しい株を買う」、「相対的上昇率が低い(或いは下落率が大きい)株を買う」、「アナリストのカバーの少ない株を買う」、「割安度合いが更に割安に変化した株を買う」、「注目度の低い中で(複数のスクリーニングを行う)上方修正した株を買う」、「不祥事等で過剰に下落した銘柄を買う」といった手口を通常は複数組み合わせながら、ライバルよりもかなり手広い分散投資を行うことが、ファンドマネージャーとしての自分の基本戦略だった。

 敢えて言えば、他人よりも優れた企業評価が出来るなどという不遜な考えを捨てて、他の市場参加者が間違える可能性が大きいと見える傾向性を用心深く拾って組み合わせたのだ。

 価値観としては、「よく考えると合理的なのだけれども、心理的にはやりにくい」という着眼をよしとする。一言でまとめると「合理的へそ曲がり」の精神で運用を考えることが身についている。もちろん、結果が裏目に出ることもあるが、そのように考える癖がある。

 例えば、「ROEの高い会社はいい会社だ」といういかにも世間受けしそうなコンセプトを持ったJPX日経400のようなポートフォリオには、懐疑的に反応したくなる。結果的にいいか悪いかはともかくとして、「ROEが高くなった銘柄が入って来るということは、割高な銘柄が入りやすい、(素人臭い!)ポートフォリオではないか」と先ず思う。例えば、JPX日経400で言うと、新規に採用された銘柄よりも、除外されて売られる銘柄の方に断然興味が湧く。

 繰り返しになるが、それが結果として常に正しい訳ではないのだが、このように考えてみたくなる傾向が、筆者にはある。