ドル買いのリフレ相場

 もっとも、長く続くドル安トレンドが、いつどこで反転するか、どの程度動くかを事前に読む予測技術は存在しません。いざ反転して、初めて「ああ、ここで起こるのか」という場合も多く、淡々と対応するのみです。

 2021年1月、ユーロがダレる中、円は対ドル相場チャネル(図2、黄点線に挟まれた軌道)内にとどまっていました。これを突破し、109円に至る展開は、意外なきっかけで起こり、2段階を経ています。

図2:ドル/円の中期下方トレンドと急反発

出所:Refinitiv、田中泰輔リサーチ

 まず局面Ⅰは、バイデン米政権の積極的な財政政策の発案を受けて、米長期金利が強含む中、ドル/円は下落チャネル上限にはりつき、ショート勢が漠然と不安を感じる下地から始まりました。動意のきっかけは、1月末の米株式相場の急落でした。株安に伴うリスク・ポジション圧縮で、ドル/円ショートが買い戻されたのです。逃げ遅れたショート勢はドルが上がるほど損失を被るため、ドル買い円売りが連鎖しました。1ドル=105円の節目を超えて、デリバティブ取引のトリガー発動で106円近くまで進んだところで、この段階の逃避的なポジション巻き戻しは一段落と判断しました。

 ところが、ドル/円は局面Ⅱで、米金利上昇を囃(はや)すリフレ相場に移行しました。リフレ相場とは、景気活発化、デフレ抑止のための金融財政政策に沿って、リスク資産、資源・エネルギー、関連する通貨などを買い上げる展開です。そのバロメーターのように米長期金利上昇が扱われ、1月以来のドル買いを煽(あお)る形になりました。2月下旬には、米長期金利上昇におののく株安によって、逆にまた長期金利に焦点が当たりました。米株安は一見ドル安を想起させそうで、この場面は、米金利上昇でドル買いとする投機に火がつきました。