個別株投資とインデックス投資の大きな「差」

 さて、資産形成には、広く分散投資されていて、運用管理費用が低廉なインデックス・ファンドに投資する手段がある。個別株で運用しようとする投資家は、インデックス運用と自分が行う個別株運用の「差」を冷静に認識しておくべきだ。世の株式投資本は(ひどい場合には投資信託の本も含めて)、この辺りの事情を正確に説明していない。

 金融論的に見たポートフォリオの価値は、(1)期待リターン、(2)リスク、(3)コスト、の3要素で評価される。

1.期待リターン

 インデックス運用の期待リターンは、インデックスが「市場平均」を表す物だとすると、個別株投資の期待リターンの「平均」だ。これは知っておく方がいい現実だ。アマチュアだけでなくプロも含めて、個別株で運用している人の運用パフォーマンスは、平均を取るとインデックス並みのはずなのだ。大まかに言うと、インデックスに勝っている人はいるが、同時に、同じくらいの数(より正確には同じ人数ではなく同じ金額だが)、負けている人がいる。そして、「勝ち組」に回ることは、プロの投資家にとっても簡単ではないのが現実だ。

「企業を徹底的に研究すると平均に勝てるはずだ」とか「タイミングを上手くやれば損をしないはずだ」などと考えて、自分の個別株投資の期待値にすることは、普通の経済常識に照らして不適切だと気づかねばならない。

 しかし、世の中の株式投資の手引き書は、こうした点について、読者に「夢を与えすぎ」だ。例えば、過去に実績を上げたファンドマネージャーが、「素人でも、身の回りに注意を払って企業を分析すると、テンバガー(将来10倍になる銘柄)を見つけることも夢ではない」と書いた本に「ヤル気」になるのは結構なことだが(かつての筆者も少しヤル気になった)、同時に「現実にはそうでない銘柄を買ってしまうことがよくあるのだろうし、これは素人に夢を持たせるために書かれた本だ」と冷静に思い直すことができなければ、知的な大人ではあるまい。少なくとも筆者は、こうした現実が分かる人とでなければ、投資について語って、面白いとは思わない。

 資産形成と両立するような趣味としての株式投資にあっては、自分の運用が「インデックス投資並みのリターンなら上出来だ」と思うくらいの目標設定を楽しめるくらいでなければならない。

 だからと言って、筆者は、運用パフォーマンスの数字に拘るなと言うつもりはない。パフォーマンスはズルをしないで正確に測って、大いに励みにしよう。結果が数字に表れることは、株式投資を趣味として楽しむ上で重要なポイントだ。これが嫌な人は、この趣味に向いていない。