2.リスク
リターンは、原理的にインデックスに勝ったり、負けたり、なのだから、差は小さいとしても、ポートフォリオの「価値」として、個別株投資とインデックス運用では、リスクが大きく異なることの「差」を認識する必要がある。
例えば、インデックスのリスクを年率リターンの標準偏差で測って20%としよう(実際には時期によって変動するが)。対して、典型的な個別銘柄(大型株だがそこそこに人気の銘柄くらいのイメージだ)1銘柄の投資だと35%くらいのリスクがある。
1銘柄の期待リターンは大まかにインデックスと同じなのだから、共に年率6%と考えるとどうか。一応の最悪のケースを「期待リターンから−2標準偏差」で評価すると、インデックス投資は−34%、1銘柄運用だと−64%、となる。約2倍近く異なるわけだが、例えば、「100万円まで損が出来る」という制限下なら、インデックス投資では約294万円まで投資できるのに対して、1銘柄投資なら約156万円までしか投資できない。両者には、年間収益の期待値で2倍近い差が付く理屈だ。
また、一般的に使われる効用関数では、リスクに対するペナルティーは標準偏差ではなく分散で測ったリスクに対して評価される。従って、仮にインデックスの超過リターン(リスクフリー金利に上乗せされる期待リターン)が5%(分散は400%2)であるとすると、5×{(35×35)/400}=15.315なので、約15%の超過リターンが期待できるのでなければ、インデックスと同等には評価されないことになる。
期待値でなくて、既に結果の出たポートフォリオであれば、リターンが高かった方が有り難いとの評価でいいのだが、現実の運用で目指すのは、期待リターンとリスクを総合してポートフォリオが「現時点で」望ましい状態にあることなので、結果論での比較とは問題が別だ。
もちろん、実際には個別銘柄投資では、1銘柄だけに投資するのではなく、分散投資を行うことを推奨するが、それでも投資銘柄の業種が偏ったり、突出してウェイトの高い銘柄があったり、上場間もないベンチャー企業への投資にウェイトがあったりすると、上記の数値例のような「差」が、インデックス投資との間には生じているということなので、個別株投資家は謙虚でありたい。
尚、運用にあっては、期待リターンを直接上げることは相当に難しいが、分散投資でリスクを低下させることは、意図的に、かなりの確度で達成できる。この部分を楽しむのは、技術的に面倒で且つ地味なのだが、「趣味としての株式投資」にあっては、楽しむことが出来るポイントの1つだ。
3.コスト
「家庭菜園」的な個別株投資と、インデックス・ファンドへの投資を比較して、どちらがコスト(主に手数料的支出)高であるかは、微妙な問題だ。
インデックス・ファンドは手数料が低廉だとはいえ、公募の投資信託に投資しても、ETF(上場投資信託)に投資しても、運用管理費用が掛かる。また、低回転率だとはいえ、ファンド内の売買コストもある。
一方、個人が行う個別株投資は、ネット証券を使って売買して、低回転率を心掛けると、運用資産額に対する年間のコストは相当に小さく抑えられるはずだが、現実的な問題として、分散投資が不十分になってファンドのバランスが崩れやすい分売買回転率が高まりやすいので、「コスト」の面でどちらが有利なのかは、一概には何とも言えない。
ただ、「家庭菜園」の方の肩を持つとすると、インデックスの銘柄入れ替えや、銘柄のウェイト変更などで、インデックス投資家が損をする見えにくいコストや、それが大きくなるリスク(例えば、東京証券取引所が再編成される際のTOPIX[東証株価指数]は心配だ)といった、「他人に起因する損」(市販の野菜なら添加物の心配に相当する)を気にしなくていい分、個別銘柄運用の方が爽やかだ。