そして2021年1月27日

 1月27日に米株式相場が急反落して、ロビンフッダーを原因、犯人とする説がまことしやかに語られたことは上述の通り。米株式市場の中でも、まずはクリーンエネルギーや半導体など最近の好調銘柄の反落が目立ち、やがて株式相場全般に売りが広がったように見受けられました。

 相場は下落することで、ネガティブな材料を自らあぶり出し、不安心理を増幅し、売りが売りを呼ぶ群集化メカニズムとしての性質があります。秩序立った避難を完遂する相場というものはありえず、誰かが大声で危険だと叫んだり、悲鳴を上げたりすれば、皆が狭い出口に殺到するように作られた仕組みです。それで大惨事になると、犯人が仕立て上げられがちです。

 今回、実は当日、欧州株が先行して大幅に下落しており、ロビンフッダーの「犯行」が話題になる前から、米株式相場の下落も想定されたことでした。欧州株の下落は、新型コロナ感染事情の悪化、ワクチン供給の滞りに加え、直前に公表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済改定見通しで、2021年の米日のGDP(国内総生産)成長率が上方修正された一方、ユーロ圏は下方修正されたことの失望もあったと判断しました。

 さらにIMFは同日公開の金融安定報告で、コロナ禍の超金融緩和を背景に「市場には慢心感があり、急な反落リスクがある」と警戒を呼びかけました。筆者には、楽観の中の軋みを刺激するきっかけ要因としてはまずこちらを注視し、欧州株相場を観察しました。

変わらない戦略・変わるか戦術

 以上の状況判断から、まず指摘されるのは、株式相場の上昇気流を生み出すマクロの好条件に変わりはないことです。ワクチン普及による経済正常化、その過程を下支える金融緩和と財政政策の継続は、引き続きメインシナリオです。逆に、好条件が過ぎて、景気回復が早まり、相場が過熱し、先行的な長期金利上昇や政策「出口」論が、いずれ相場の頭をたたくリスクも念頭にありますが、しかし、少なくとも近い将来のリスクではなく、中期投資のロング(買い持ち)「戦略」も当然継続と判断します。

 他方、今回の株価急落で短期的に留意することは、マクロ環境という外的力学でなく、主に相場値動きと既存の投資ポジションが生み出す内的力学です。マクロの中期上昇気流中に不意に発生したエアポケットをどう脱出できるか、できないか、相場内を注意深くチェックすべき場面です。反落が大きくなった値がさ銘柄では、上値で含み損を抱えたポジションの戻り売りが相場の頭を抑える可能性があります(図3)。

 相場の失地回復の足取りが鈍い、新高値のトライに至らない、人気テーマの値がさ株が重くて銘柄間に回復のばらつきが大きい、何か儲かりにくくて焦れったい、こうしたことが、今回の相場急落によって注意喚起されたバブルへの不安に及ぶ流れは、些細な値動きから容易に生まれます。

図3:人気テーマ値がさ銘柄の上値の重し

人気テーマ値がさ銘柄
出所:Refinitiv

 慎重すぎると思われるかもしれませんが、筆者は一度投資すれば、その予想が外れるリスクにのみ意識を集中するアプローチです。リスク要因が小さい限り、投資を継続します。投資をすると、好都合な材料ばかりを受け入れやすくなる偏向は人の性(さが)。この罠(わな)に陥らないための方策です。

 米株式相場の短期的展開については、かねて以下のシナリオを基本イメージとして掲げてきました。

・1月:米新政権発足に伴う相場高揚
・2月:新政権相場ムード一服後、コロナの峠越えまで中だるみ
・3月:新型コロナ峠越えとワクチン普及を背景に楽観再浮上
・4~6月:経済指標の季節調整値の上振れで相場浮上、過熱からの自律調整も

 このうち1月相場は、5日の米ジョージア州選挙でトリプル・ブルー確定と20日の新政権発足が相乗作用する面と、心理的高揚を分散した面の両方が観測されました。そこに今回の株価急落が起こりました。2月相場にシンプルに強気になるより、エアポケットを抜けきれないか、抜けてもそこで一服するリスクを頭に入れて、当面の失地回復をフォローしたいと考えます。

 2020年9月からの相場反落も上昇気流の中のエアポケットと診断しましたが、上昇リズムの復調には1カ月、相場水準の回復には3カ月を要しました(図4)。今回はそこまで大きなエアポケットとは、現時点ではみていません。

 さて、相場は急反落の翌週2月1日、2日と急反発しました。当初、失地回復過程の「戦術」は、(1)幅広く分散された包括的な株価指数、決算・需要面の裏打ちがある銘柄などの堅実アプローチを正攻法と考えました。しかし相場の反発が速いので、早くも次のステップとして、戻り高値付近からの勢いの鈍化が相場の心理に与える影響に焦点を移して観察しています。その際に上述(1)の正攻法か、(2)復調のハイテク・グロース銘柄か、(3)上値ポジションの含み損が重しで逆に戻り余地が大きく見える人気テーマ銘柄か、投資家のスタンス次第でそれぞれに選択肢になるでしょう。

 筆者自身は、相場がエアポケットを短期間に完全に抜けきれるか核心を持てない段階のため、多くの投資家が前向きに取り組みそうな(2)のハイテク・グロース銘柄で相場のリズムを測ることを優先して検討中です。

 以上は、あくまで今回のエアポケットを脱するまでの短期アプローチです。中長期の投資家は、エアポケットではなく、上昇気流に沿って構えていただければよい場面と判断しています。

図4:2020年9月からの相場エアポケット

相場
出所:Refinitiv

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