インデックスファンドは万能ではない
近年、投資の方法として内外のインデックスファンドを使う書籍を何冊か出し、対外的に発言する場でもインデックスファンドを勧める機会が多いことから、筆者は、「インデックスファンド万能主義者」のような印象を持たれることがあるらしい。「インデックスファンドにも幾つか欠点があります」と言うと、驚かれることがある。
現実の運用対象商品として、アクティブファンドよりもインデックスファンドの方が好ましいことは、論理の上でも、データの上でも言えることだし、多くの投資家の個別株投資よりは、インデックスファンドの方がリスク・リターンの効率が好ましいと評価できる場合が多いのも事実だろう。
しかし、比較上の善し悪しは相対的なもので、現存の商品としてのアクティブファンドが相対的に悪すぎるだけで、それがインデックスファンド側に欠点がないことを意味しない。今回は、インデックスファンドの弱点を列挙して検討してみたい。最後に、解決策を提案する。
インデックスファンド7つの弱点
1.銘柄入れ替えを利用されて損をする
インデックスとは株価指数のことだが、株価指数の構成銘柄は何らかの基準やインデックス組成者の判断、或いは上場企業の行動などによって変化することがある。この際、構成銘柄を入れ替える前に変更が発表されて、実際に「〇月×日の終値」のような基準で計算方法が変更される。
すると、この指数をターゲットとするインデックス運用やデリバティブの裁定取引ポジションの保有者などは、インデックスに追随するためには、この終値で銘柄を入れ替えたらよい。そうしない場合、インデックスとのズレが大きく発生する可能性が生じる。
この情報構造は、指数の除外銘柄の「売り」と新規採用銘柄の「買い」を事前に公開してファンドを運用しているのと同じ効果を生み、これを他の市場参加者(証券会社の自己売買、高速取引業者、個人のトレーダーなど)に利用されて、指数自体と指数に連動するインデックスファンドが損をする事態が発生しやすい。
簡単に言うと、計算基準が変更される「〇月×日の終値」に向かって、除外銘柄は売り込まれて株価が下落し、新規採用銘柄は買い進まれて株価が上昇し、インデックスファンドは、人為的に下落した株価で除外銘柄を売り、上昇した不自然に高い株価で新規採用銘柄を買うので、「〇月×日の終値」の前と後と両方で損をしやすいのだ。
このケースでは指数自体が下振れするので、これに忠実に連動して下振れする限り、インデックスファンドの運用者は責任を問われない。
仮に銘柄入れ替えが事前に発表されないとすると、インデックスファンドの運用者は困るし、デリバティブの取引に使われている指数だとすると、裁定取引が正確に行えないなどの不都合が生じる。
この弱点が最も分かりやすく表れたのは、2000年に行われた日経平均の銘柄入れ替えだった。この前後2週間くらいの日経平均をTOPIX(東証株価指数)や日経500などと比較すると、日経平均が10%以上も不自然に下落している。当時、日経平均のインデックスファンドに投資していた人は損をして、証券会社の自己勘定が大手証券関係者の推定では2,000億円以上(ある大手証券では一社だけで800億円)利益を上げたという。
目下心配なのは、東京証券取引所の市場再編に伴って、TOPIXの採用銘柄を指数の連続性を維持したまま「東証プライム」に入れ替えようとする動きが生じることだ。日銀によるETF(上場投資信託)買いもあって、TOPIX連動のインデックスファンドの残高は、かつての日経平均連動ファンドの比でないくらいの巨額に上っている。
東京証券取引所には、「TOPIX」の連続性を保ちつつ、「東証プライム指数」(仮称)をスタートさせて、両指数を併走させる措置を強く望みたい。
有識者とされる一部の人の中には「時価総額が小さく経営効率の悪い一部上場会社の経営者は、TOPIXに採用されていて自動的に自社の株が買われることで経営規律が緩んでいるのではないか」という幼稚な処罰感情を持つ人がいるようだ。或いは、トレーディング業者に収益機会を作ることに真の意図があるのかも知れないが、強引な銘柄入れ替えは行わない方がいい。投資家を処罰しても仕方がないではないか。
尚、銘柄をゆっくり入れ替えても、損が少々目立ちにくくなるだけで、トレーディング業者にインデックスファンドの投資家が「喰われる」構造自体は変わらない。
この入れ替えが起こる場合、除外銘柄はTOPIXを外れるまでに株価下落バイアスが掛かり、外れた後には反動で株価が上昇しやすくなるはずだ。年金基金のような運用者に注文が出来るアセットオーナーは、例えば、リバランスをしばらく止めさせて、価格へのバイアスの影響が収まってから、独自のタイミングで構成銘柄を入れ替えるような運用を行うといいかも知れない。
個人投資家は、東京証券取引所の対応と、運用会社の対応を見て、場合によってはインデックスファンドの乗り換えを検討すべきかも知れない。
筆者が一番心配している投資家は日本銀行だ。保有額が巨額だけに、ぼんやりしていると、大きな損失を被るかも知れない。東京証券取引所の動向と共に、問題が生じそうな場合には、国民としては日銀がこの問題に十分な対策を講じるかどうかを注視する必要がある。
銘柄入れ替え要因によるインデックス投資家の損の大きさは、年間数bp(ベーシスポイント。1bpは1%の100分の1)〜数十bp。場合によっては%単位。2000年の日経平均入れ替えのように2桁%に及ぶ惨事はもう起こらないと信じたい。