マーケットが注目する日銀短観の想定為替レート

 このコラムでもたびたびこのテーマは取り上げていますが、日銀短観の中で、大企業・製造業の業況判断DIと同じようにマーケットが注目している項目に想定為替レートがあります。

 短観では全規模・全産業の想定為替レートを発表していますが、輸出企業の事業計画の前提となっている想定為替レート(大企業・製造業)も発表しており、特に注目されています。

 今回発表された大企業・製造業(対象企業数992社)の想定為替レートは次の通りです。

日銀短観の想定為替レート

大企業・製造業 2020年度 上期 下期 前月終値*
2020年6月調査 107.48 107.51 107.45 107.86
2020年9月調査 107.11 107.20 107.02 105.93
2020年12月調査 106.70 106.98 106.42 104.35
*前月終値:調査月の前月の終値であり、各種情報から算定した参考値
注:2020年12月調査
対象:大企業・製造業992社

 大企業・製造業(992社)の2020年度下期の想定為替レートは1ドル=106.42円となっていて、9月も12月も下期は前回調査より50銭前後の円高方向に想定されています。しかし、実勢レートと比べると9月調査以降、かい離幅が拡大してきています。

 表の右側には調査月の前月の終値(実勢レート)を参考値として記載しています。

 6月調査では実勢レートは想定レートよりも41銭の円安でしたが、9月調査では実勢レートが想定レートよりも1円9銭の円高、そして12月調査では2円7銭の円高とかい離幅が拡大しており、想定レートよりも円高が進行していることを表しています。

 想定レートよりも円高が進むことは収益の押し下げ要因となりますが、想定レートをあまり円高方向に設定していないことを見ると、企業は実勢レートが円高に進行している環境を現時点では受け入れておらず、1ドル=103円台、104円台は一時的な動きと見ているのかもしれません。

 日銀短観の想定為替レートに比べ、主要製造業はもう少し厳しい見方をしているようです。

 日経新聞によると、2020年度下期の想定為替レートを開示している3月期決算の企業102社の平均値は1ドル=105円40銭とのことです。さらにトヨタやホンダなど自動車会社は下期の想定レートを1ドル=105円と、より円高方向に設定しています。それでも現在の1ドル=104円台の為替水準が続くと、収益を押し下げます。トヨタだと想定レートより1円円高になると200億円の利益を押し下げるとのことです。もし、1ドル=100円になれば1,000億円の減益要因になる計算になります。

日本の貿易収支は5カ月連続の黒字だが…

 日本の貿易収支は5カ月連続の黒字となりました。回復傾向にあるとはいえ、貿易黒字額も輸出金額も過去の水準と比べると低い状態です。従って、日本の輸出企業のドル売りがドル/円を押し下げるというようなことは起こりにくい状況となっています。

 しかし、実勢レートが想定レートよりも円高方向にかい離している局面では、実勢レートが想定レート近辺に戻ってくると、さらなる円安を待つというよりも想定レート近辺にドル売りが集中してくる可能性が高いと思われます。従って、日銀短観の想定レート(1ドル=106.42円)や主要企業102社の平均想定レート(1ドル=105.40円)は、円安圧力を抑制するポイントとして留意しておく必要があります。