中央銀行への不信感が代替通貨「ゴールド」の価値を高めてきた
ゴールド価格(ドル建て)は、過去20年で4倍以上に上昇しています。まず、その要因を説明しましょう。吉田哲アナリストが常々レポートに書いてきたことですが、一番重要な要因をひとことで言うと、「中央銀行が発行する通貨価値の低下にともなって、代替通貨として値上がりしてきた」とまとめられます。
ゴールドには、そもそも3つの利用価値があります。
- 代替通貨としての価値
- 宝飾品としての価値
- 産業用途としての価値
ゴールド固有の、もっとも重要な価値は、代替通貨としての価値です。次に重要なのが、宝飾品としての価値です。産業用途(歯科材料など)もありますが、限定的です。
2008年のリーマンショック以降、日米欧の中央銀行は、こぞって大規模な金融緩和を行いました。通貨発行量をどんどん拡大する「量的緩和」を実施するとともに、利下げを続けました。その結果、マイナス金利が日本だけでなく欧州にも広がりました。
自国通貨は安ければ安いほど良いとして、自国通貨の価値を下げる「通貨安競争」をやっているとも言われています。自国通貨が安いほど輸出が拡大し景気が良くなるからです。中央銀行がお金を刷りまくって空からばらまけば景気が良くなるという「ヘリコプターマネー」理論を唱える学者まで現れる始末です。
今年コロナショックが起こると、日米欧主要国は「何でもあり」の経済対策を始めました。各国の中央銀行が未曾有の金融緩和を進める中、大型の財政出動が行われました。コロナ対策として、事実上のヘリコプターマネーが実現しました(日本でも国民すべてに一律10万円給付などが実施される)。
政府および中央銀行が、このように通貨の信用を下げる行動を強め、ゼロ金利が広がっていくと、マネー市場では中央銀行が発行する通貨を持つインセンティブが低下します。設備投資需要が限られる中、行き場のないマネーが市場にあふれました。そうした中で、代替通貨を探す動きが強まっています。
代替通貨を求めるマネーの一部は、暗号資産(仮想通貨)であるビットコインに向かいました。そこで、ビットコインの急騰が起こりました。ただ、ビットコインは、短期的な価格変動があまりに大きいため、通貨として決済手段に使われることはほとんどなくなってしまいました。「通貨」ではなく、文字通り「資産」となった感があります。
代替通貨を探すマネーの大部分は、通貨の元祖、ゴールドに向かいました。ゴールド見直しの最も象徴的な動きが、各国の中央銀行が、外貨準備の一環として、ゴールドを買い始めたことです。1990年代以降、各国の中央銀行は、金利を生まないゴールドの保有をやめ、売却しました。ところが、今、逆にゴールドを買い増しするようになってきています。
ゴールドを代替通貨と言っていますが、貨幣の流通が始まったばかりの古代から近世において、ゴールドは代替通貨ではなく、通貨そのものでした。金貨が、もっとも信用のある通貨でした。興亡を繰り返す不安定な国家や政府が発行する通貨よりも、はるかに高い信用がありました。
貨幣経済が急拡大した近現代に至っても、通貨発行主体に信用がない間は、金に交換できる通貨、兌換紙幣だけが信頼を得ていました。ただし、兌換紙幣だけに頼っていると、金の流通量に通貨の発行量が制約されます。それでは、世界的に急拡大する貨幣経済に、通貨の発行が追いつかなくなります。そこで、金と交換されない不換紙幣が発行されるようになり、その発行がどんどん拡大していきました。
世界の中央銀行の信用が高まった現代、通貨に金の裏づけは必要なくなりました。今や、中央銀行が紙幣を刷りまくって金利をゼロにしても、世界中の人が何の疑いもなく、中央銀行の発行する通貨を信用し、喜んで受け取るようになりました。
ゴールドを上昇させているのは、こうした中央銀行の行動への疑念だと思います。中央銀行が、自ら発行する通貨や、中央銀行そのものの信用を低下させる政策を採り続ける限り、今後もゴールドが代替通貨として買われる流れは変わらないと思います。