楽天証券経済研究所コモディティ・アナリスト吉田哲が、プラチナの価格変動を分析したレポートをトウシルに掲載しました。以下より、お読みいただくことができます。

 12月14日「2021年のプラチナ6大予測:新しい上昇要因で1,300ドル程度まで上昇!?」 

 現在1トロイオンス当たり1,020ドル辺りで推移しているプラチナ価格が、2021年中に1,300ドルまで上昇する可能性に言及しています。ぜひ、お読みいただきたいと思います。

 今日は、プラチナ(白金)およびゴールド(金)について、私が考えていることをお伝えします。どちらも、長期の資産形成のために分散投資していく価値があると考えています。今は、プラチナの投資価値により注目しています。

長期低迷が続いてきたプラチナ価格にボトムアウトの兆し

「プラチナ会員」「ゴールド会員」と言ったら、どちらが格上でしょう。通常は、プラチナ会員の方が格上です。なぜならば、長年にわたり、プラチナの価格はゴールドを上回って推移してきたからです。ところが、その常識が今、通用しなくなってきています。

 プラチナの小売価格は、12月14日時点で1グラム当たり3,470円です。一方、ゴールドは1グラム当たり6,148円です。ゴールドがプラチナを8割近く上回る価格となっています。

プラチナ・ゴールドNY先物価格(期近、月次推移):1988年1月~2020年12月(11日まで)

出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成

 上のチャートは、プラチナとゴールドの1988年以降の価格推移を示しています。1トロイオンス(約31グラム)当たりのドル建て先物価格(期近)で示されています。

 これを見るとわかる通り、2015年1月以降、ゴールド価格はプラチナ価格を完全に逆転しました。その後、毎年、価格差が広がっています。

 なぜこのような逆転が起こったのでしょうか?今後、元のようにプラチナがゴールドを上回るようになることはあるのでしょうか? 最近になって、ようやくプラチナ価格はボトムアウトしつつありますが、価格上昇は続くのでしょうか?

 それを考える前にまず、ゴールドとプラチナ価格が近年、どういう要因で変動しているか、簡単に振り返りましょう。

中央銀行への不信感が代替通貨「ゴールド」の価値を高めてきた

 ゴールド価格(ドル建て)は、過去20年で4倍以上に上昇しています。まず、その要因を説明しましょう。吉田哲アナリストが常々レポートに書いてきたことですが、一番重要な要因をひとことで言うと、「中央銀行が発行する通貨価値の低下にともなって、代替通貨として値上がりしてきた」とまとめられます。

 ゴールドには、そもそも3つの利用価値があります。

  1. 代替通貨としての価値
  2. 宝飾品としての価値
  3. 産業用途としての価値

 ゴールド固有の、もっとも重要な価値は、代替通貨としての価値です。次に重要なのが、宝飾品としての価値です。産業用途(歯科材料など)もありますが、限定的です。

 2008年のリーマンショック以降、日米欧の中央銀行は、こぞって大規模な金融緩和を行いました。通貨発行量をどんどん拡大する「量的緩和」を実施するとともに、利下げを続けました。その結果、マイナス金利が日本だけでなく欧州にも広がりました。

 自国通貨は安ければ安いほど良いとして、自国通貨の価値を下げる「通貨安競争」をやっているとも言われています。自国通貨が安いほど輸出が拡大し景気が良くなるからです。中央銀行がお金を刷りまくって空からばらまけば景気が良くなるという「ヘリコプターマネー」理論を唱える学者まで現れる始末です。

 今年コロナショックが起こると、日米欧主要国は「何でもあり」の経済対策を始めました。各国の中央銀行が未曾有の金融緩和を進める中、大型の財政出動が行われました。コロナ対策として、事実上のヘリコプターマネーが実現しました(日本でも国民すべてに一律10万円給付などが実施される)。

 政府および中央銀行が、このように通貨の信用を下げる行動を強め、ゼロ金利が広がっていくと、マネー市場では中央銀行が発行する通貨を持つインセンティブが低下します。設備投資需要が限られる中、行き場のないマネーが市場にあふれました。そうした中で、代替通貨を探す動きが強まっています。

 代替通貨を求めるマネーの一部は、暗号資産(仮想通貨)であるビットコインに向かいました。そこで、ビットコインの急騰が起こりました。ただ、ビットコインは、短期的な価格変動があまりに大きいため、通貨として決済手段に使われることはほとんどなくなってしまいました。「通貨」ではなく、文字通り「資産」となった感があります。

 代替通貨を探すマネーの大部分は、通貨の元祖、ゴールドに向かいました。ゴールド見直しの最も象徴的な動きが、各国の中央銀行が、外貨準備の一環として、ゴールドを買い始めたことです。1990年代以降、各国の中央銀行は、金利を生まないゴールドの保有をやめ、売却しました。ところが、今、逆にゴールドを買い増しするようになってきています。

 ゴールドを代替通貨と言っていますが、貨幣の流通が始まったばかりの古代から近世において、ゴールドは代替通貨ではなく、通貨そのものでした。金貨が、もっとも信用のある通貨でした。興亡を繰り返す不安定な国家や政府が発行する通貨よりも、はるかに高い信用がありました。

 貨幣経済が急拡大した近現代に至っても、通貨発行主体に信用がない間は、金に交換できる通貨、兌換紙幣だけが信頼を得ていました。ただし、兌換紙幣だけに頼っていると、金の流通量に通貨の発行量が制約されます。それでは、世界的に急拡大する貨幣経済に、通貨の発行が追いつかなくなります。そこで、金と交換されない不換紙幣が発行されるようになり、その発行がどんどん拡大していきました。

 世界の中央銀行の信用が高まった現代、通貨に金の裏づけは必要なくなりました。今や、中央銀行が紙幣を刷りまくって金利をゼロにしても、世界中の人が何の疑いもなく、中央銀行の発行する通貨を信用し、喜んで受け取るようになりました。

 ゴールドを上昇させているのは、こうした中央銀行の行動への疑念だと思います。中央銀行が、自ら発行する通貨や、中央銀行そのものの信用を低下させる政策を採り続ける限り、今後もゴールドが代替通貨として買われる流れは変わらないと思います。

フォルクスワーゲンショックから低迷が続くプラチナ

 プラチナは、2006-08年にかけて急騰しました。環境意識の高い欧州でディーゼル車の排ガス浄化装置にプラチナ需要が拡大したためです。

 プラチナは、排ガス浄化装置の触媒として使われます。触媒とは、自らは化学反応を起こさず、他の物質に化学反応を起こさせるものです。排ガス浄化装置内のハニカム状の構造物に塗布され、排ガスの有害物質を分解する働きを持ちます。触媒として、プラチナほどすぐれた貴金属はありません。長期間にわたって劣化しない、貴金属として最高の品質を持つからです。

 ところが、2015年10月に独フォルクスワーゲン(VW)問題が起こってから、欧州でのプラチナ需要は減少しました。この時、VWが排ガス検査データを偽造して、ディーゼル車の環境性能を高く偽装していた問題が発覚しました。その後、欧州では、ディーゼル車の人気が落ち込み、ガソリン車への需要シフトが起こりました。

 ところで、ガソリン車にも排ガス浄化装置はつけられます。ガソリン車では、高価で稀少なプラチナではなく、当時、プラチナより安価だったパラジウムを触媒として使いました。パラジウムの需要は、新興国でガソリン車の需要が拡大するにしたがって、継続的に拡大。需要が低迷するプラチナを尻目に、パラジウムの需要拡大、値上がりが続いた結果、ついに、パラジウム価格はプラチナを抜き、いまやプラチナの倍以上の価格となっています。

 触媒として完璧なプラチナを、パラジウムが逆転し、2倍以上の価格差がついているというのは、需給のなせる業とはいえ、おかしなことと考えています。

世界の自動車販売の回復が続けばプラチナの価値見直しも

 最初の問いに戻ります。ゴールドとプラチナの価格逆転は、なぜ起こったのでしょう? 代替通貨としてゴールドの需要拡大が続いているのに対し、プラチナはディーゼル車の排ガス浄化装置触媒としての需要が伸び悩んだため、価格逆転が起こりました。

 それでは、元のように、プラチナがゴールドより高くなることはあるでしょうか? プラチナを代替通貨として買い上げる動きが出ない限り、あり得ないと思います。それは当面、期待できません。

 ただし、このまま、いつまでもプラチナが安値であり続けるとも考えられません。世界の中央銀行が、通貨の価値を低下させる量的緩和を続ける限り、どこかで安過ぎるプラチナの見直しが起こると思います。

 世界の自動車販売が底打ちに転じつつある今、産業用途(ディーゼル車排ガス処理装置)に使用されるプラチナへの投資を検討して良いタイミングと考えます。

世界の自動車販売台数

出所:OICA(国際自動車工業連合会)より楽天証券作成。2020年は楽天証券予想

 世界の自動車販売は、2008~2009年にリーマンショックでマイナスとなった後、2010~2017年まで安定成長が続きました。ところが、18年は伸び悩み、19年から減少に転じていました。20年はコロナショックで、販売が▲17%落ち込むと予想しています。

 ただし、自動車販売は、循環します。コロナショックで今、買い替え需要が抑えられているため、潜在的な買い替え需要が積みあがってきている可能性もあります。その場合、2021年の世界自動車販売は、前年比で20%以上の増加になると考えられます。このタイミングで、プラチナへの投資を始めても良いと思います。

 長期の資産形成には、長期の分散投資が有効と言われています。過去の常識では、外国株、外国債券、日本株、国内債券に分散投資するのが良いと言われてきました。ところが、長期金利がゼロまで落ちた今、国内債券には投資価値がほとんどないと考えています。

 国内債券に代わって、何に投資したら良いでしょう? REIT(上場不動産投資信託)や、プラチナ、ゴールドに分散投資することが、長期的な資産形成に有効と、私は考えています。

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