ドル安の構図

 ここへ来て、ドル安・円高の見方が増えてきており、1ドル=100円が視野に入ってきたという予想が増えてきています。現在のドル安の構図を整理しますと、以下の2点が挙げられます。

1:拡大する「双子の赤字」

「双子の赤字」とは経常収支と財政収支の赤字です。

「双子の赤字」は米国の構造問題といわれていますが、特に有名なのが1980年代のレーガノミックスです。大型減税で内需が過熱し、貿易収支は大幅な赤字になって貿易摩擦が強まり、ドル高是正のため1985年の「プラザ合意」に至りました。日本は狙い撃ちされ、1ドル=240円が数年で半分の120円の円高となりました。

 現在は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって大規模な財政を出動した結果、米国の財政赤字は9月末までの1年間で3兆ドル超と3倍に増加。IMF(国際通貨基金)は2020年の財政赤字のGDP(国内総生産)比が18.7%と予測しています。ユーロ圏の10.1%や日本の14.2%と比べても悪化が目立ちます。

 また、1980年代半ばでさえ米国の財政赤字はGDP比5%前後ですので、現在の赤字状況は相当悪いということが分かります。また、貿易赤字は8月に過去最大に迫る赤字となっています。

 この拡大する「双子の赤字」によって、エール大学のスティーブン・ローチ氏はドルの実効レートがドル安に修正され、理論値では2021年末までに35%下がると予測しています。現在のドル/円に当てはめると、1ドル=105円(名目レート)とすると、35%のドル安によって1ドル=68円になることになります。

2:低金利長期化とドル供給の拡大

 現在のFRBの金融政策では2023年まで政策金利のゼロ金利継続の方針に加え、量的緩和の無制限の方針を打ち出しています。ドルをジャブジャブに供給し続け、ドルの金利を低く抑えていくことはドルが減価していくことを意味します。

 これらの要素によってドル安が長期間定着する地合いが続いています。ただ、これらの政策は、コロナ禍による経済への悪影響を抑えるために取られている政策であるため、新型コロナウイルスの感染拡大が抑制されていけば、政策が変更、あるいは停止されることが予想され、注意が必要です。

 米国でのワクチン接種は年内に始まり、来年2021年半ばには全国民に行き渡るだろうといわれています。従って、政策変更の時期として来年半ばが一つの目安になりそうですが、マーケットは常に先取りするため、コロナワクチンに副作用がなく、効果があると認知した時点、あるいは新型コロナウイルスの感染者増大にブレーキがかかった時点で反応してきます。

 そのタイミングは新春早々ではないと思いますが、来春前にはやってくるかもしれません。年明け、正月気分が終わったあたりから半身の構えで臨む必要がありそうです。

 相場シナリオとしては、その時に金利は上昇しドル高となり、株は一時的に急落、その後、経済活動の復活を好感し上昇していくようなシナリオが予想されます。