“イメージ”で論じてはいけない。プラチナの需要は“実態”に着目しなければならない
以下のグラフは、プラチナの全需要と、その中の自動車排ガス浄化装置向けの需要の推移を示しています。
図:プラチナの需要動向(年ベース) 単位:千オンス
2015年9月に発覚した、“フォルクスワーゲン問題”(ドイツの自動車大手の同社が、違法な装置を使い、排ガステストを潜り抜けていた問題)が発覚したことをきっかけに、同社の主力車種であったディーゼル車への不信感が高まり、同車の排ガス浄化装置に多用されるプラチナの消費が減少するとの見方が、強まりました。
そして、同問題を機に、プラチナの消費が減少し、プラチナ価格は下落するとの見方が大勢となりました。また、その後、欧州を中心とした主要国の環境規制の強化が進んだことも相まって、プラチナの消費はさらに減少するとの見方が強まりました。
とはいえ、グラフのとおり、プラチナの2019年の全需要は、同問題が発覚する前の2014年を超えています。これは、問題が発覚した2015年以降の自動車排ガス浄化装置向けの需要がさほど大きな減少になっていないこと、投資向けの需要が増加したことなどが、要因とみられます。
“イメージ”と“実態”が乖離(かいり)しているわけです。フォルクスワーゲンの問題発覚や環境規制の強化が、プラチナの消費を減少させる“かもしれない”というイメージが先行したものの、データが示す実態は、多くの関係者が抱いたイメージと、異なります。
確かに、問題発覚以降、欧州のディーゼル車の生産台数は減少しました。しかし、自動車排ガス浄化装置向けの需要が急減していないのは、世界的に環境規制が強化される中、規制に対応し続けるべく“自動車1台あたりの同需要”が増加したためだと、筆者は考えています。
この件の詳細は以前のレポート「プラチナ取引で知っておきたい3つの「勘違い」」で書いています。
“かもしれない”ではなく、データを見ることが重要です。あるアナリストは、需要が減少するかもしれないという“イメージ”が先行したことが、近年のプラチナ価格の低迷の一因であり、これは“風評被害”である、と指摘しています。筆者は、この指摘に、おおむね同意します。
次は、フォルクスワーゲン問題や環境規制の主な舞台である欧州で、プラチナの消費が回復する兆しが出始めていることについて、書きます。