米大統領選よりも、欧州のコロナ再拡大に関心が集まるのは、欧州の医療崩壊懸念のため
先週1週間は、米大統領選挙と欧州の新型コロナ感染再拡大のニュースが目立ちました。
米大統領選挙の候補者である二人は、施策は異なっても、全体的には「米国をよくしたい、米国経済を立て直したい」という思いは同じだと考えられます。その意味では、投票日前後、各種市場は、乱高下する可能性はあるものの、しばらくすれば、次期大統領の一挙手一投足に期待を膨らませながら落ち着きを取り戻し、自然に回復していくとみられます。
このように考えれば、今回の米国の大統領選挙は、歴史に残りそうな混乱試合であるものの、時間軸を伸ばせば、ある程度、楽観視できる要素を持っていると言えると思います。
一方、欧州の新型コロナ感染再拡大はどうでしょうか。日に日に患者が増加しており、国によっては急増の域に達しています。増加がいつ止まるのか、誰にも予想ができない状態です。期待よりも不安に反応する傾向がある大衆が参加する市場は、“米国の大統領選挙がもたらす期待”よりも、”欧州の新型コロナの感染拡大がもたらす不安に”、さらに言えば“次の4年間よりも今に”、そして“政治よりも人命に”、強い関心を示していると考えられます。
図:市場の関心の方向性
以下より、欧州の新型コロナの感染状況を示す、患者数と回復率という2つのデータに注目します。
以下の図は、欧州主要国の人口100万人あたりの新型コロナの患者数の推移です(筆者推計)。9月半ばごろから、欧州主要国で患者数が急増し始めたことが分かります。すでにベルギー、スペイン、フランスは、世界で最も感染者・患者数が多い米国を上回っていることも分かります。
人口100万人あたり、ベルギーは3万人強、スペイン、フランスは2万人前後です。つまり、ベルギー国民の100人に3人強(3%強)、スペイン、フランスそれぞれ国民の100人に2人前後(2%前後)が新型コロナに感染し、回復していない可能性があります。(10月30日時点)
図:欧州主要国の新型コロナの患者数(人口100万人あたり) 単位:人
※国名の右の人数は10月30日時点
※患者数は、感染者ー回復者ー死亡者 で計算
以下はアジアとオセアニアの主要国です。欧州主要国と比べると、歴然とした差があることがわかります。
図:アジア、オセアニアの主要国の新型コロナの患者数(人口100万人あたり) 単位:人
※国名の右の人数は10月30日時点
欧州主要国とアジア・オセアニア主要国の新型コロナの患者数には、大きな違いが2つあります。規模と傾向です。規模で言えば、欧州の方が圧倒的に多いこと(ベルギーは日本のおよそ600倍)、傾向で言えば、9月半ば以降、欧州は急増、アジア・オセアニアはやや増加、という状況です。
“感染爆発(爆発的なスピードで感染が急拡大する意味)”の域にあると言っても過言ではない欧州と、それを発生させないように抑え込んでいるアジア・オセアニア、という構図です。患者数の増加は、直接的な医療ひっ迫の原因になり、回復率を低下させる一因になるとみられます。
以下は、欧州、アジア、オセアニア主要国の、新型コロナの回復率の推移です。
図:欧州、アジア、オセアニア主要国の、新型コロナの回復率の推移
※回復率は、回復者数÷感染者数で計算
スペイン、フランス、ベルギーの回復率が8月以降、低下傾向にあること、そして、100万人あたりの患者数が他の欧州主要国に比べて少ないドイツとイタリアにおいても、10月に入って回復率の低下が目立ちはじめています。
オーストラリアと日本は8月に回復率が一時的に低下しましたが、9月に入り回復しました。“新しい生活様式”が浸透しつつあることなどで、患者数は増加しているものの、その増加を一定程度におさえこみ、患者に医療を行き届ける体制を維持できている点が、回復率が回復した要因とみられます。
患者数の増加と回復率の関係から、欧州主要国の医療体制はひっ迫している可能性があります。これから冬になり、他の感染症の拡大が同時進行した場合、ますますひっ迫する可能性があります。欧州のいくつかの国で“再ロックダウン”が導入されたのは、危険な現状をより悪化させることなく、回復を急ぐためとみられ、やむを得ない判断と言えそうです。
ただ、“再ロックダウン”という欧州主要国の決断に、多くの市場は「下落」で反応しました。実体経済に悪影響がおよぶ可能性が高いこと、(再ロックダウンをしなければならないほど)状況が非常に悪いという事実を突きつけられ、市場心理が悪化していることなど、実体面・心理面の両面で、再ロックダウンはマイナスの材料として、各種市場に作用しているとみられます。
金(ゴールド)も原油も、国際商品であるため、世界経済に影響し得る米大統領選挙も、欧州の新型コロナの感染状況も、ともに注目することが必要ですが、今は、どちらかと言えば、欧州の新型コロナの感染状況に重きを置くタイミングなのかもしれません。